一章

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「ご安心ください。さあ、こちらへ」  秀一の笑みに圧倒され、殆ど強制的に頷かされた男性が治療室の外に出る。治療室内は、都々と秀一、不安そうに寝台に横たわる少年の、三人きりとなった。 「都々」  秀一が短く都々を呼ぶ。  声音に滲む酷薄さに気付いているのは都々ばかりであろう。都々は棚から一枚の布を取り出すと、そっと少年の顔に被せた。 「少し視界を隠させてもらうよ。君は目を瞑っているだけでいい」  秀一が少年へ優しく声を掛ける。その間に、都々は治療の準備を進めた。  面布は視界が悪いが、全く見えないわけでは無い。都々は秀一が使用人に作らせている軟膏を取り出し、寝台の側に膝を突いた。 「さあ、治療を始めるよ。少し痛みを感じたり、沁みたりするかもしれないが、心配はいらない」  都々に代わって、秀一が治療開始を合図する。都々は蓋を開けて、軟膏を中指で掬った。  この軟膏に、特別な力はない。何の変哲もない、一般的な塗り薬だ。
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