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都々は傷口を避けながら、ゆっくり薬を塗っていく。本来であれば患部に塗布するものだが、その必要は無い。だってこんなのは、ただのこけおどしなのだ。この行為には、何の意味も無い。だから、無意味な痛みは与えたくなかった。
塗られた薬が、てらりと照明の光を反射する。都々は薬の蓋を閉じ、手のひらをそっと少年の腕に翳した。すると、都々の手のひらが淡く灯り、光の粒子が舞い始める。
「っ」
少年の肩がびくりと跳ねた。不思議な感覚に、戸惑っているようだった。
「大丈夫だから。目は開けないで」
念を押すように、父が言う。
光の粒子はやがて細い糸を織り成し、螺旋を描きながら少年の傷口へと向かった。すると、光の糸で縫合されるように、みるみる傷口が修復されていく。
体感にして、十五分程度だろうか。都々の額を一筋の汗が伝う頃、少年の腕はすっかり完治していた。目を皿のようにして見ても、瘡蓋ひとつ見つからない。
都々は翳していた手を下ろして、一度寝台から離れる。壁際で腕を組んで都々を監視していた秀一が少年を覗き込み、無言でまた戻った。
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