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序章
このまま、朽ちていくのだと思っていた。
希望も救いも無く、光すら失われた部屋で、ゆっくりと。
終ぞ人間らしい扱いはされぬまま、使い古された道具のように、錆びていくのをただ待つだけ。
悲しくは無かった。そんな感情、とうの昔に置き去りにしてきたのかもしれない。ただ、闇ばかりが蔓延るここは、冷たくて寒いから。一秒でも早く命の灯が尽きてくれればいいと。確かに、願っていたのだ。
「なあ、逃げたいか?」
――そう、この時までは。
真っ暗闇だった世界を、突如眩い閃光が弾き飛ばした。
人外めいた美貌の男が、呆然とする少女に手を差し伸べる。
「生きたいなら、私の手を掴め。絶対に助けてやるから」
後光を背負う男の、なんと神々しいことか。
新雪を思わせる、純白の長い髪。血のように赤い瞳を持つ、どこか色っぽい三白眼。その容貌は、遠い異国に棲むという血を喰らう妖の話を思い出させた。陽の光を知らぬ白く滑らかな肌は、陶器のように美しい。
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