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「つーかあの爺はまだ俺に跡取りやれとか言ってんの?」
「『まだ』じゃない。ずっと待ってたんだよ。時が解決するなんて考え甘いよ。わざと五年放って、『もう満足しただろう』って言うつもりでいるんだから」
「俺のことなんてさっさと忘れてくれればいいのに」
言いながら忌々しげに例の封筒を睨んでいた。
「そんなことできるわけないでしょ。兼定はきょうだいで唯一の男だったんだから」
「好きでなったわけじゃない」
「それは誰でもそうだよ。運命を恨むしかない」
運命を恨む……。なんだろう。お金持ちでも、恵まれていても、全然幸せじゃないなんて。
「とにかくお父さんはもう動いてる。今回のお金のこともそうだし、大学にも願書送ったって聞いたよ」
「はあ? 勝手に?」
「そう。これからでも大学行かせて跡継ぎにするつもりなんだから」
ななな、なんてこと。大学に行くなんてことになれば当然パティシエは続けられない。
「春からなにか動きがありそうな感じはあったの。でも兼定が全然聞く耳持ってくれないから」
「おまえを無視してた結果がこれだって?」
言って例の封筒を指さす。そして私の方に視線を向けると、呆れたように言った。
「二百万だよ。頭おかしいでしょ」
「にっ」
予想を超えた金額に言葉を失い目を剥いた。
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