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「このカネで俺を買い取るんだと」
「そんな言い方やめて」
「そういうことだろ。脅迫まがいの文書まで付けて」
南美ちゃんをじろりと睨んだ。封筒は今日、お店の郵便受けにどさりと投函されていたのを帰り際にシェフが発見したんだそう。現金だしもちろん切手や消印はなくて、直接入れられたものらしい。
「わかってる。これを突き返しても次は店ごと潰すぞって俺を脅す気なんだろ」
ぞくり、と寒気がした。店ごと……。シェフとゆうこさんの顔が浮かぶ。そんなことあっていいはずがない。
「どうやっても逃げられないよ。もう会うしかない。会って、跡取りはやらない、自分はパティシエとして生きて、この人と結婚します。って堂々と宣言すればいいんじゃん」
「そんな戯言が通用するかよ」
「その戯言をやりたいんでしょ? 覚悟があるんでしょ?」
黙る小野寺くんの表情はとても苦しそうだった。
そんな顔、してほしくない。
「あ、あの……」
会話に割って入るのはなかなか困難だったけど、伝えなくちゃ、と思ったのです。
「私、いいよ。一緒に会うよ。なんでもするよ」
向けられた二つの似た顔。きっと四きょうだい揃って美形なんだろうな。
「小野寺くんの力になりたい」
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