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古い一枚板の扉をノックすると、聞き慣れたちょっと早口の声が返ってくる。
「入りなさい」
ギギーと音を立てながら重い扉を開くと目に入ってきたのは、四角い装置の前に佇む鳥の巣のような頭にヨレヨレの白衣を羽織った一人の男性。
伯父のケイラン博士だ。
「トリアーナ、随分遅かったじゃないか」
「急に呼び出したりして何なのよ。私だって暇じゃないんだから」
そう言って口を尖らせてみせると、伯父さんは「ふふふ」とこもったような笑い声を上げた。
「実は、新しい育雛器が完成したのじゃ」
彼はドヤ顔で散らかった部屋の奥に鎮座している箱型の装置を指差してみせた。
「へえ……。珍しくちゃんと仕事してたんだ」
「人聞きの悪いことを言うもんじゃない。わしはいつだって真面目に仕事しとるぞ」
伯父さんはいつも『自動脱帽機』だとか『真実発見機』だとか訳のわからない物ばかり作っている。
でもそんなのばかりだと領主様から予算が下りなくなってしまうから、時々こうやってマトモな物も作っているのだ。
「でも、だからって何で私が呼ばれるの?」
「この育雛器の最終テストをしてもらいたいのじゃ」
「だったら養鶏農家さんに頼んだ方がいいんじゃないの?」
私のようなど素人よりも、普段からヒヨコに接している養鶏農家さん達の方がより具体的なテストができるんじゃないだろうか。
「この育雛器は『誰でも手軽に簡単に』がコンセプトなのじゃ。初心者にテストしてもらわなくては意味がない」
「なるほど」
でも私はヒヨコなんて育てたことはない。何か責任重大だな……。
「大丈夫。頼りになる助っ人も用意してあるから」
伯父さんは「ふふふ」と笑ってみせた。
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