育てる

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 翌日、再び私は伯父さんの研究所を訪れた。  箱の中から薄黄色のフワフワした生き物を慎重に取り出す。  手のひらに収まるほどのそれは、ほんのりと温かい。  そう、伯父さんから「自身の魔力を込めたヒヨコを一羽用意してくるように」と言われていたのだ。  平民である私の魔力は微々たるもの。  こんな小さな鳥の雛を持ち上げることもできない。  せいぜいその小さな体の表面温度をほんの少し上げることぐらいだ。  それでも生まれて間もない生き物の体温を維持するくらいには役に立てたようで、ヒヨコは元気よくピヨピヨと鳴いている。  指の腹で首元を優しく撫でてやると、ヒヨコは気持ち良さそうに目を細めた。  私は育雛器の蓋を開け、その小さな体を敷き詰められたウッドチップの上へそっと置いた。  予めスイッチを入れておいた育雛器は雛にとって適温になっている。 「この育雛器は自動温度調節装置が装備されているんだって。だから私の魔力が切れちゃっても大丈夫なんだよ」  ヒヨコは初めての場所にビックリしているのか、ピヨピヨと鳴き声を上げながら私の指先に纏わりついてくる。 「今日からここが君のおウチだよ。いっぱい食べて大きくなるんだよ。ピヨちゃん」  背後でギイと扉の開く音がする。 「……テスト用のヒヨコに名前つけてどうすんだ」  人を小馬鹿にしたようなこの低い声の持ち主は……。 「バートン!」  切れ長の目を細めてこちらを見下ろしてくるのは長身の男性。  彼はストレートの黒髪を細く長い指でかき上げると、ツンと尖った顎を突き出してみせた。  一つひとつの仕草が何かと鼻につくコイツは私の幼馴染。  昔から私のことを何かとおちょくってくる。  そうだった。バートンは伯父さんの助手をしていたんだった。 「『ピヨちゃん』なんて相変わらず残念なネーミングセンスだな」 「うっさいな。今仕事中でしょ? 無駄なこと喋ってないで早く職場に戻んなよ」 「だから今仕事中だ」  彼は育雛器に近づいてくると持っていた小さな箱の蓋を開く。 「えっ! もしかしてって……」 「お前、このテスト絶対成功させろよ。そうしないと領主様から予算が下りないんだ。俺の給料にかかわってくる」  そう言って彼が手にしていた箱から取り出したのは、フワフワとした茶色い毛に包まれた小さいヒヨコ。  真新しい育雛器に入れられたヒヨコ達は仲間ができて嬉しいのか、体を寄せ合ってピヨピヨと鳴いてみせた。    
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