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その人は窓から差し込む朝の光を背に浴びながら優しい笑顔を向ける。
「トリアーナ、おはよう」
いつもと違う柔らかな雰囲気を纏ったバートンの様子に、胸の奥がトクリと鳴った。
その鼓動は、小さな温かい塊となって体中を駆け巡る。
「お前、まだ寝ぼけてんのかよ」
いや気のせいだった。バートンの口の悪さはいつも通り。
「バ、バートン、随分早いね」
私は熱をもった頬を隠すように前髪を直してみせる。
「俺はこれから仕事があるからな。お前みたいに暇じゃないんだ」
「うっさいな……。ピヨちゃん達は?」
「見てみろよ」
育雛器の中を覗いてみると、ヒヨコ達は保温用の電球の下で寄り添い合いながらまどろんでいる。
「ほら」
バートンの指差すところには白い小皿。
昨日玄米を細かくしたものを入れておいたのだけど……。
「昨日より減ってる! 食べたの?」
「多分な」
「うわぁ、ピヨちゃん偉いね」
私が思わずそう言うと、目を覚ましたピヨちゃんは「ピヨ」と可愛らしく鳴いてみせた。
「本能って凄いね」
私がそう言うとバートンは嬉しそうに目を細めてみせる。
「ああ、ピーちゃんは賢いからな」
「ピーちゃん?」
「水を飲んだのだってピーちゃんが先だ。きっと餌だってピーちゃんが食べてるのを見てピヨちゃんも真似したんだ」
「目撃した訳じゃないでしょ? ピヨちゃんが先かもしれないし……。てか、この子ピーちゃんなの?」
「ピヨちゃんだけ名前つけて、コイツは名無しってわけにもいかないだろ」
「いやそうじゃなくて……」
人のこと散々馬鹿にしていたくせに……。
「ピーちゃんは賢いからきっと立派なニワトリになるぞ」
そう言うバートンの眼差しはただの親バカ……。
「ピヨちゃんとピーちゃんなんて似たような名前、本人達も混乱するんじゃないかな?」
「本人じゃないだろう。ヒヨコなんだから」
本ヒヨコ? 本鶏?
「いやそういう細かいことじゃなくて」
「気に入らないなら、ピヨちゃんの名前を変えればいいだろ?」
「何で後からつけたくせに……。そもそもピヨちゃんなんて残念な名前だとか馬鹿にしてなかったっけ?」
「パートナーのレベルに合わせたんだよ」
「ピーちゃんもピヨちゃんもまだ雄か雌かわからないじゃん」
「このテストのパートナーって意味だよ。お前ヤラシイな」
自分の頭からボンという音と共に、湯気が出たような気がした。
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