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チリン、とかわいく鳴ったベルの音と共に、店の中に足を踏み入れる。 静かな店内に、優しいジャズの音楽が小さく流れていて、お客はまだ一人しかいない。 会う約束をしていた人との予定がなくなって、目の前にあったバーで飲んで帰ろうと思って入ったけど……。 店内は薄暗く、小さな照明とカウンターテーブルに置かれているキャンドルの暖かい灯りのみ。 だけどそのキャンドルの灯りが、店内を優しく照らして、居心地のいい雰囲気を醸し出している。 このお店の雰囲気、すごく好き、かも。 「こちらにどうぞ」 バーテンダーの男の人に声をかけられ、カウンター席のすでに座っている男の人の二つ隣の席に座った。 「初めまして、ですね?」 「はい。いつもこの辺には来ないんですけど、用があって来たら、たまたまみつけて」 「みつけてくださって嬉しいです。何、飲みますか?」 「じゃあ……、甘いやつ、で」 「かしこまりました」 あまりこういうバーに入ったことがなくて、ドリンクのことはよくわからない。 こんな頼み方でよかったのかと、ソワソワしていたら、それが恐らくバーテンダーさんにも伝わったのか、優しく微笑んでくれた。
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