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《契約》
空は誠一に駆け寄りにこりと微笑んだ。明るさを伴わせるその微笑みに誠一は断ることができない。
背後からゼロが肘を突っつく。
「おいおい。完全にホの字じゃねぇか。どうするよ、色男?」
「……うっさい」
「えっ、なんか言った?」
「な、なんでもないよ! 行こうか」
空の悪意のない微笑みと対照的に意地汚く微笑む悪魔と比較して……誠一は肩を落とした。
ゼロと出会ったのは占いの館であった。ひっそりと佇んでおり看板さえも立てかけられていなかったが、誠一は吸い寄せらせるように建物へ入り込んでしまった。
すると一人の男がカラフルな水晶の前でなにかをしているのが目に映った。男のみなぎるような逞しい体つきに誠一は息を呑む。
男がその視線に気が付いた。
「あ……、えっと、ごめんなさい! なんとなく占いの館かな~って思って来てしまって!」
深く礼をして帰ろうとする誠一の手を男が引き留めた。それからニヒルに微笑む。
「いいぜ。占ってやるよ」
「は……はぁ」
「あんたの言いたいことはわかる。――恋に関してのことだろう?」
男の言葉に誠一はなぜわかったかのような顔をした。男が誠一を席に座らせる。
男は企むように微笑んだままだ。
「あんた、名前は?」
「え、えっと……来堂です」
男は首を振る。
「ちげぇよ。フルネームと生年月日もついでに教えろ」
「あ、えっと……。来堂 誠一で9月3日生まれです」
それから西暦までも言わされて答えた。男がさらに深い笑みを見せる。男が水晶ではなく誠一の手を取った。
ひどく冷たい手に驚きつつも男は固く手を取る。
「あんた、結構困っているようだな。俺が手を貸してもいいぜ?」
「どういうことですか? それに僕はなにも……」
「意中の相手と結ばれたいか、今、告白された同性の相手と付き合うかで迷っているんだろう?」
その通りだと言う誠一に男は悪戯に笑ったかと思えば……誠一を強く引き寄せ抱き締める。冷たいが熱い抱擁に誠一は鼓動を跳ねさせた。
男は耳元に口を寄せる。
「ここに来られたということは、あんたはなにか俺と縁がある」
「……縁、ですか?」
「あぁ。だから問題だって解決してやるし、ある約束を守ればあんたの恋は成就する。……俺の名はゼロ」
するとゼロは耳元で放った。
「俺と契約すると誓え」
どういうことなのかわからぬが早く離して欲しくて誠一は叫んでいた。ゼロと誓うと。
するとゼロの体温が上がったかと思えば、頭には角が生え腰付近には見事な尻尾が生えてくるではないか。
驚愕する誠一は腰を抜かす。ただゼロは止まらない。
「はっはっは! 人間と契約したぞ。――これで人間の魂をたらふく食えるぜ!」
ゼロは歪に笑いながら誠一を見た。誠一は恐ろしさのあまり逃げ出そうとするが、ゼロが阻む。
「待て、誠一。お前はまだ正式な契約をしていない。そうしないとお前の魂を食うことになるぜ?」
「ど、どういうことですかっ!? 嫌ですっ、離して!」
逃げ出そうとする誠一に、ゼロは含んだように笑ってから……キスをした。残酷な甘いキスに誠一は初めてを奪われてしまった。
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