《クーリングオフはできません》

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《クーリングオフはできません》

「ふぅ……んぅ……っ」  酔いしれるような深く甘いキスは誠一を毒させた。息が苦しく、吞まれるような勢いに気絶しそうになる。  ゼロが唇を離せば銀糸がたらりと流れて落ちる。呆然とゼロを見つめる誠一にゼロはニヒルに笑った。 「これで契約は完了っ。誠一、あんたはこれから俺と行動を共にすることになるぜ」 「え、は、……はい?」  筋肉を魅せ付けるようなタイトな服を着ているゼロは誠一の周りをぐるりと回る。 「まず、意中の相手と恋愛成就した場合は見放された相手の魂を食らう。その逆もしかりだ」 「そんなっ……!? 嘘でしょっ、嘘ですよね?」 「――マジだぜ」  突き放されたような言い方に誠一は愕然して床に膝をついてしまった。それから見上げるような態勢で未だに微笑んでいるゼロを見やる。 「この詐欺師! 変態! クーリングオフしてよっ!」 「クーリングオフは受け付けませ~ん。あんたは契約を交わしたんだ。それに、恋して成就さえすればそれで良いんだよ」 「……成就できなかったらどうなるの?」  いつの間にか敬語がなくなり涙目になる誠一へゼロは膝を下ろして耳元に口付けた。 「そしたらお前の魂を食らう」  誠一は絶望の淵に立たされることになったが恋を成就させるため、こうしてゼロと行動を共にすることになったのだ。 「それでさ~、ゼミの女の子に合コンに誘われたんだけど断ったんだ。俺、誠一のことが好きだしさ」 「そ、そうなんだ。ふ~ん……」 「まだなびいてくれないの?」  切なげな表情を見せる空に誠一は首肯するように軽く縦に振る。空が浮かない様子だが呆れたように微笑んだ。 「まぁ男同士だしね。でも俺なら誠一を上手くリードさせられるよ」 「マジか、こいつゲイか? それとも俺と同じでバイか?」  ゼロが首を傾げているが誠一はゲイやらバイなどの意味がわからない。純粋無垢な青年に育った誠一はいかがわしい単語は自主的にさえも習わなかったようだ。  ゼロに話し掛けるわけにはいかないので誠一は少し考えた。 「えっと……、その、空ってバイって奴なの?」 「バカっ! そういう直接的なことはあんまり聞くのは良くねぇんだよ」  ゼロに頭を叩かれ頭を抑える誠一をよそに空はふっと顔を綻ばせた。 「誠一からそんな言葉が出るなんて思わなかったな。う~ん。俺はバイかな」 「バイって、えっと……」 「両方イケるってこと。男も女も関係ないって感じかな」  なるほどと強く頷きゲイに関しては後でゼロに聞いてみようと誠一はふと考えた。だが意味がわかり困惑している様子の誠一に、――空が手を握る。 「俺、誠一のこと本気だよ。誠一が女装とかしてよがる姿を妄想して……その、一人でしたこともあるし」 「おい。こいつ変態だぞ」  げんなりしながら尻尾をピンと立てているゼロと意味合いがよくわかっていない誠一ではあるが、誠一はそれでも「考えさせて」そう告げて空と駅で別れるのだ。  それからゼロにゲイのことと空が告げた意味合いを教えてもらい、赤面させていた誠一であったとさ。
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