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《よく見ると》
「いやぁ~参ったな。まさかあんたに恋する野郎がオナニーするなんて正直に言う変態だったとはな」
「オ、オナニーって……」
その言葉でさえもあとでゼロから聞いて顔をりんごのように熟れさせた誠一にゼロは興味津々の様子だ。
こんなにも純粋無垢で優柔不断な青年に出会ったことがなかったからであろう。ゼロは自室のベッドに座り込み、考え込んでいる誠一の顔を見る。
不格好な眼鏡のせいで契約したばかりの頃はわからなかったが、じっくりと見つめると長い睫毛に大きな黒い瞳に筋の通った端正な顔立ちに不覚にも鼓動を跳ねさせた。
尻尾がピンと跳ね上がったが誠一は気づいていない。――誠一は深く項垂れた。
「う~ん、どうしよう。自滅覚悟で新さんに告白するか、空と付き合うか……。悩むなぁ」
「意外だな。空って奴はお前に面と向かっておかず宣言していたんだぜ」
「……おかず?」
ゼロは先ほどの想いをとは打って変わり「あんたを出汁にしてシコっていたんだよ」呆れた様子で話せば、再び誠一は顔を赤面させたものの目を伏せる。
「でも、その……それぐらい、僕に恋してくれたのが嬉しかったなぁというか、なんていうか」
「あんたの女装姿でオナっていたんだぜ? よく引かねぇな」
「女装姿は困るけど……、まぁ良いかな、みたいな」
足をぶらぶらさせつつ空の言動には引かなかった誠一の態度にゼロは再び興味を抱いた挙句、――空のことが気になった。
相当な遊び人であれば白昼堂々と恋する相手の目の前で自慰行為宣言などするのか。自殺行為な気がするが、誠一を手に入れるために性急な言動をしたのかもしれない。
充電している誠一のスマホに一件のメッセージが入る。誠一はそれに気が付いてスマホを手に取った。
誠一の顔がみるみるうちに綻ぶ。
「ゼロっ、新さんからメッセージ来たよっ! こんなの初めてだ」
「ほぉ~、メッセージが来たか。そんで、なんだって?」
「えっとね……」
メッセージを嬉々とした開く誠一の顔にゼロはじっと見つめた。女装でもさえれば美少女になるであろうというのが容易く想像できる。
そんななかでメッセージを読み込んでいた誠一が肩をがっくしと落とした。ゼロが文面を見つめて納得する。
「『講義で聞き取れなかったところあるから教えて』か。まぁ、そんなもんだろ」
「うっさいっ! 僕のドキドキを返せ!!」
だがそれでもメッセージに返信をしてベッドに打ちひしがれてしまう誠一へゼロはふとこんなことを言い出した。
「まぁでも、メッセージが来るってことは関心があるってことじゃねぇか?」
「それ……ほんと?」
黒いダイヤのような澄んだ瞳に見据えられ、ゼロはなにかを思った。だがその想いはすぐに消滅し、アドバイスをする。
「いったんメッセージから始めてみろ。そうすればなにか掴めるかもしれない」
「あ、ありがとうゼロ!」
大輪の花のように微笑む誠一の姿にゼロは心を掴まれたような気がした。
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