《キスの練習》

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《キスの練習》

 ゼロが変な感覚を抱いているなかでアドバイスを受けた誠一はメッセージを打ち込んでいく。すると黙っていたゼロが横から文面を見て息を吐いた。 「なに素直に教えようとしてんだよ。いいか? こういうのは素直に教えたうえで詳しく知りたかったら茶でもしないかどうか誘うんだよ」 「誘ってどうするの? 話題とかわからないし……」 「あんた、好きな奴の趣味とかわかんねぇのかよ」  誠一が深く頷けばまたもやゼロが盛大に息を吐き出した。さすがの誠一もこれには怒りをあらわにしたようだ。 「悪かったねっ。どうせ僕は気になる相手のことなんてなにも知りませんよ!」 「本当にそうだな。まったく、キスしたときにもウブな反応してたしよ。あ~、このままだとあんたの魂を食うことになるな」 「それは嫌だよ! ……わかったよ。誘えばいいんでしょ?」  誠一は教えたうえで『時間があるときにお茶でもしませんか?』誘い文句を付けて送信した。心臓の音がいつもより早い。誘ったことなど今まで一度もないからだろう。  ゼロが尻尾をゆらゆらとさせた。 「キスと言えば、あんた。ちゃんとリードできんのかよ」 「リードって?」 「だからぁ、その新って言う女にだよ」  その言葉を聞いて誠一は首を横に向けたかと思えば肩を落とした。どうやら自信がないらしい。さすがのゼロも深く項垂れた。 「は~まじか。じゃあ練習でもすっか」 「練習って……ゼロとキスするの?」  頬をピンク色に染める誠一ではあるがなぜか嫌ではなかった。ゼロが精悍で男らしさを感じさせる風貌であるにもだ。  どこかで期待をしている自分が居る……などと思ったが、誠一は頭を振って自身の頬を叩いた。初めてのキスを奪われたからだと自分に言い聞かせ、何事かと思っているゼロへ伏せた目を見せる。 「その……、ゼロとキスするの? ゼロがリードしてくれるの?」  最後の言葉はゼロにしっかりと目線を向けた。視線が合わさるがゼロは軽く息を吐いたかと思えば「当たり前だ」そう告げる。  これで何度目の溜息だと誠一は肌身で感じた。 「あんたは俺のクライアントではあるからな。いいか、誠一。まだ慣れていなくて良いから、――しっかりと俺の技、盗めよ?」 「う、うんっ!」  首を縦に振ったかと思えば、じっと見つめてくる誠一へゼロはふと笑う。それから誠一の顎をすくったかと思えば――空いた左手で誠一の両目を覆った。 「キスは目を閉じて味わうんだよ」  告げた途端に唇が触れ合い、口内を貪った。舌で感じ、耳で感じる卑猥な音と感触に誠一は酔いそうになる。 「ふぅ……んぅ、んぅっ……!」 「こら、鼻で息しろ。そうだ、ゆっくりだ」  ゼロが再びディープキスをすれば溢れんばかりに欲が垂れる。地面に落ちたかと思えば唇を離された。  息を荒げている誠一ではあるが……問題がある。 「ちんこ勃たせてんじゃねぇよ、バカ」 「ご……ごめんな……さい……」  これ以上なく赤面して急いでトイレに向かう誠一と可愛らしい彼の姿を見たゼロはふとなにかを思ったのだ。
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