*《熱が冷める》

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*《熱が冷める》

 トイレに駆け込んで自身を事務的に処理する誠一ではあるが、なかなかあの行為が忘れられないでいる。冷たさを纏わせているというのに流れ込んでくる熱と淫靡な音とひどく冷たいほど絡みついて離さない欲深い舌の感覚に溺れる自分が居た。  その煽情的な舌使いと息遣いに再び自身が硬直する。熱が治まらない。 「はぅ……ふぅっ、んぅ……ぅ……!」  冷静になれと頭で訴えた誠一は早くこの熱が覚ますような、払拭させるような考えを及ばせた。  自分があの淫乱な悪魔に魂を狙われていること。二人のうちどちらかと付き合わなければ自分の魂が取られ、逆に片方と成就すれば——その相手の魂があの悪魔に食われるということを。 「そ、そっか……」  さすがにヒヤリとして熱が治まる。良かったなどと安堵して誠一はトイレを出てリビングで夕飯を取った。  美味しくいただいた夕飯を腹に収め、風呂に入ってから自室でのんびりしようとした。自室へ向かうとゼロが誠一のスマホを弄っていた。  湯上りの誠一を見てゼロが少し驚いた顔をする。誠一の頬は赤く染まり、髪は濡れ、――眼鏡は外されていた。 「よ、よう……。なんか、新って奴から来てるぜ」 「新さんから来ていたんだ! ……ゼロ、少し声が震えていたけど、どうしたの?」  手元にあった眼鏡を掛け直し紅潮している様子のゼロへ声を掛ければ、ゼロは誠一の元へスマホを投げ捨てるような行動をした。  さすがの誠一も驚いてスマホをキャッチする。 「なにすんの、急にさ! まったく、僕のスマホでエッチな画像見てたんでしょ?」 「ちげぇわっ! さっきも言ったろ。新って言う女からメッセージのやり取りしたって」 「……やり取り?」  スマホを見てみるといつの間にか話が進んでいたので誠一は自分が送ったメッセージを確認してからゼロが代わって送っていたメッセージを読み進んでいく。  そこには趣味のことを尋ねていたり、友人を誘って遊びに行きたいなどのやり取りが書かれていたりしていた。  ゼロが上手く話題を引き寄せていたらしい。だがしかしだ。 「あの~ゼロさん? 僕、『ライアンゲーム』なんて映画もドラマも知らないんですケド?」  まさかの話題はかなり前の映画の話題であった。するとゼロは企みを抱くような笑みを見せる。その余裕な笑みでさえも様になっているなと誠一はふと感じた。  ゼロがスマホを指さした。 「今すぐこのライアンゲームを観ろ。ちなみにドラマもやっていて2期まであるそうだ。ちなみに映画は2作」 「――えっ?」 「今は動画をサブスクして観られるだろ? 明日、その新って奴と会う約束してるから今すぐに観ろ」  確かにメッセージには『講義が終わったら学部のカフェテリアで!』そう記されていた。誠一の顔がみるみるうちに青くなり冷や汗を垂らす。  悪魔が悪戯に微笑んだ。 「ちなみにライアンゲームは初期から好きって言っておいたからな」 「――ゼロのバカ~~~~!!!!!」  誠一は話を合わせるために今すぐ視聴する羽目になったとさ。
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