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「宮野さんも、もう帰りますか?」
白衣を脱いだ篠原が声をかけてきた。
「うん。もう片付けて帰るよ」
私はそう返事をした。
そして、研究室の中にあるいくつかの機器の電源を落とし、薬品棚に鍵をかけた。
窓の鍵は篠原が確認してくれている。
あちこち見回って確認した後、自分のデスクで白衣を脱いでいると、篠原が既に帰る準備を終えて待っていてくれているのが見えたので、慌てて脱いだ白衣をかばんに突っ込んだ。
「ごめんね、おまたせ」
私は鍵を握って、彼が待っている入り口に向かった。
「消し忘れたものはないかな。明日から休みだから、ちゃんと消しておかないと」
私は独り言を言いながら、研究室を見渡した。
「大丈夫やと思いますよ」
京都出身の篠原が答えた。
大学に入学してから6年近く、東京で一人暮らしをしている彼は、かなり言葉もこちらに馴染んできているが、やはりイントネーションはなかなか変わらないらしい。
彼自身はこちらの言葉に合わせたいと思っているらしいが、私は、彼が優しい声で話す柔らかな関西弁の響きを好ましく感じていた。
「じゃあ、電気消すね」
私は電灯のスイッチを押した。
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