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彼女は仕事一筋に生きてきたいわゆる『バリキャリ』だ。
フリーランスではあるが、相当稼ぎがいいとホストたちの間ですぐに話題に上がった。
俺が席に着いたとき、一緒に来ていた彼女の仕事仲間が笑いながら言っていた。
『惚れた男に手ひどく裏切られて、それ以来金と仕事しか信用しないのよ』
って。
あぁ、30手前のキャリアにはよくある話だ。
そう思った。
「じゃ、俺らも一緒っすね」
「確かにお金好きそうだもんね」
指名をもらっているホストと、彼女の友達が軽口をたたく。
ここではテンプレみたいな会話が、俺の耳を素通りしていく。
俺は彼女の表情になぜか目が離せなくなる。
よく見りゃ金持ちなのがわかる。
きっと金はたまるけど使い方もわからんし、使おうとも感じないのだろう。
でも仕事上それなりに“いいもの”を身に着けていたほうが、信頼を得やすい。
仕方なく興味もないブランドを身にまとって着飾っているのだろう。
俺らと同じ、ブランドが彼女の鎧なのだ。
でもその中身は支えを求めているような、一息つける場所を欲しているような、何ともウレイのある顔を見せていた。
「ここはホストクラブなんだから、姫はわがままになっていいんだよ」
そう言うと
「そうね、その対価はしっかり支払うわ」
そう返して俺の目をしっかり見た。
「なんでも飲んでいいわよ」
その目は、さっきの愁いを帯びたものとは違って、
女性実業家と言った凛としたものになっていた。
「やったぁ」
他のホストは喜んだが、俺はなんだか喜べなかった。
それでもホストにとって高いお酒や高額な支払いは、愛情に比例する。
俺がその言葉を引き出せたことにはうれしさがないわけじゃない。
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