私が1番可愛いの by平田美咲(29)・専業主婦

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私が1番可愛いの by平田美咲(29)・専業主婦

 私が結婚を決意したのは世間体のためと、人妻の肩書きに魅力を感じたのと、あとは親がうるさかったから。  要は既婚者の方がおひとりさまより、いい女っぽく聞こえる気がした。  平田を選んだ理由は仕事をしなくていいことと、ネイルや美容室、エステなど好きに通って良いと約束をしてくれた点から。  じゃなきゃ誰が好きでもない、ひと回りも年上と結婚するか。  話題が合わん。  子作りなんて天地がひっくり返っても無理だし、デートも嫌。  私の隣りに立って良いのは、イケメンだけと決めている。  のでこれから、そのイケメンと待ち合わせでーす♡  建物の窓硝子に映った全身を見回し、今日も可愛い私、と自画自賛する。  ってもホストの同伴だけど、お金はたんまり持ってきた。  見渡せばCVS(コンビニ)、カラオケ、飲食店と、沢山の人が就業している。 「働くなんて馬鹿みたい、可愛くないって残酷ね」  その点私は、夫というATMを持っている。  時間外料金も手数料も発生しない、文句も返済もない引き出し専用機だ。  夜の訪れに合わせネオンが灯り始め、寂寥感に苛まれた。  赤ちゃんを紐で抱っこした女性が歩いてきたので、わざとぶつかってやる。  虚しさに包まれた。  ふと思い出した。平田不倫説なるものを、偶々目撃したという友人たちが教えてくれたのだ、それも何件も。  表向きは心配してくれていたけど、腹の中までは分からない。  嘲っているかもしれなくて悔しい。
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