奥さんより幸せだもん by谷川陽子(51)・派遣社員

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奥さんより幸せだもん by谷川陽子(51)・派遣社員

 ランチタイムのベーカリーカフェは大混雑していた、焼き立てパンが美味しいと有名なためだろう。  丁寧に全てのパンを、店内オーブンで焼き上げている。  喧騒の中、注文を無事終えた後輩(36)は、早速とばかり身を乗り出した。 「その後、不倫はどうですか」  社会的には叩かれる行為だ。  質問を受けた谷川だって、もし売れっ子芸能人ならきっと文春砲を喰らう。  だが谷川は派遣社員(一般人)。 「私は配偶者っていらないの、欲しいのは愛。  子供もいらないわ、育てたいのも愛だから」  この発言は決して強がりでも、口から出まかせでもない。  谷川はバツ2だ、結婚に懲りている。四人の子供を女手ひとつで育てているため、副業も多数抱え、住居は県営住宅だ。 「結局本妻に妬きませんか。別れさせたくないですか、殺意は沸きませんか」  どれだけ彼から沢山の愛情を注がれても、本妻の座に居残る女がいる限り、谷川はいつまで経っても二番手だ。 「お言葉だけど大元さん、外に女作る旦那ってどうよ。  私には、妻に落ち度があるとしか思えない」  谷川の脳内には 妻 < 自分 の図式があり、妻と彼との関係は、既に冷え切っていると踏んでいる。 「それもそっか」腕組みした後輩は天井を睨む。 「愛があれば、そもそも不倫になんて走らない」  それにね、と自分語りをする谷川。男は谷川より十も若い!  その実年齢こそ谷川の自信の根拠であり、自身を魅力的と評価する理由だ。 「先輩。私なら、私だけを見てほしいです。  他の女には目もくれないで、私とだけ愛を育ててほしい。  まぁ未婚で子なしの私が、心配する話しでもないんですけどね」  後輩の語気には、やけに熱がこもっていた。
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