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突然の
それから紫さんは数週間に一度くらい、僕の夢の中に現れた。僕達はすっかり仲良くなっていて、彼女が夢に出てきた日は嬉しかったし、会えなかった時は寂しい気持ちで目が覚めたものだった。
そんな生活が半年程続いて、僕は念願の第一志望の大学に合格した。そのことを紫さんに破顔しながら報告した。
「おめでとう、君ならきっと出来るって思ってたよ」
紫さんは微笑みながら祝福してくれた。しかしその笑顔はすぐに消え、何かを考えるような表情になった。
「・・・どうかした?」
「何でもないよ。それよりさ、聡君は将来の夢とか決まってるの?」
「・・・うん、実は、図書館の司書になりたいんだ」
「すごい。立派な夢だね。君によく合ってる気がする」
嬉しそうに話を聞く彼女に、僕は改めて向き直った。
「・・・僕、君と会うまでは悩みだらけで、先のこととかも全然前向きに考えられなかったんだ。でも、君が僕の話を真摯に聞いてくれて、助言をしてくれた。そのおかげで僕の人生はそれまでよりずっと良くなったし、将来の夢も考えられるようになった。全部、君のおかげだったんだ」
僕の話を紫さんは無言で聞いていた。珍しく難しい顔をして目の前の空間を見つめていたと思ったら、重い口を開くような雰囲気でつぶやいた。
「・・・君と会えるのは、今日が最後だと思う」
「え・・・?」
驚いて、というよりいきなりの事でそれしか声が出なかった。紫さんは膝を抱え込むようにして座りながら物憂げな表情をしていた。
「どうして・・・」
「私もずっと、君とこうして話していたい。けれどそういう訳にはいかないんだ。ごめんね」
依然として彼女の大きな瞳には長い睫毛が翳っていた。
「そんな、嫌だよ・・・まだまだ話したいことが沢山あるし、君がいたから僕は頑張って生きられるようになったのに」
やっとの思いで言葉を絞り出すと、紫さんは僕を抱き締めた。
「君と話せて良かった。もうこうして会うことは叶わないけど、君がより良い人生を送れるよう見守っているよ。君ならきっと大丈夫」
そうして彼女は僕の手に何かを握らせた。手を開くと、そこにあったのはとても小さな馬の置物だった。茶色くてつるつるしたそれは、少し年季が入っているように見えた。
「私からのお守りだよ。何か辛い事があった時は、それを見て私を思い出してくれると嬉しいな。・・・じゃあね、聡」
そして慌てた僕が止める間も無く、紫さんは夜の空間と共に消えていってしまった。心の整理がつかないまま、僕は放心したようにしばらく立ち尽くしていた。
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