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・精霊に愛され特別な力を持ち、大切にされる姫。いつしか我儘で横暴に育った彼女は、精霊から見放され力を失ってしまい――。
精霊から見放され力を失ってしまった姫は、ブチ切れた。
「精霊ども、マジで許さん! あいつらに復讐してやる!」
精霊に愛され特別な力を与えられるなど大切にされていた恩をすっかり忘れた姫は、我儘で横暴な性格をむき出しにして罵った。その罵声を聞いて興味を抱いたのは地獄の悪魔だった。
「お姫様、手前は悪魔でございます! 精霊どもへ復讐したいとお考えだと伺いましたので、やって参りました!」
突然現れた悪魔に驚いた姫だったが、持ち前の肝の太さを発揮する。
「おぅぉうおう、悪魔ども! よう来たのう! クソ野郎の精霊どもをメッチャ酷い目に遭わせるために、お前らの力が必要なんだよ! さあ、手を貸してくれ! お前らの知恵を貸してくれ!」
足りないなりに知恵を振り絞り悪魔が提案する復讐の方法を聞いた姫は、それらに片っ端から駄目出しをした。
「もっと良いのはないのかよ! 精霊どもを根絶やしにするような、物凄いの!」
悪魔より悪魔的な姫に、悪魔もドン引きだった。しかし、こういう輩こそ精霊退治に役立つ。強烈な悪意、そして復讐心! これが何より大切なのだ。
次に大事なのは、姫の持っている能力である。それには、彼女の出自を知ることが重要となってくる。
「お姫様、一つお伺いします」
「なんじゃあ」
「お姫様は、どこのお姫様なんです?」
「そんなことも知らないのにワイっちのところへ来たんかい!」
姫は赤ん坊の頃、森の中に捨てられていたところを精霊たちに助けられたのだった。精霊たちの強く深い愛情なくして、姫は生き延びられなかったのだろう。いつしか我儘で横暴に育った姫は、その恩を忘れてしまったのである。
悪魔は疑問を呈した。
「捨てられた赤ん坊が、どうして姫になったんです? あるいは、どうしてあなたが姫だと分かったのでしょう?」
姫は説明した。
「ワイっちが入れられていた揺りかごに、手紙が置かれていたんや。キャプションみたいな感じで。この子は姫ですって」
そんなの本気で信じるなんて、精霊たちは頭がどうかしている、と悪魔は呆れた。だが、精霊たちは自分より賢い。何らかの根拠があるだろう、と悪魔は考えた。
「それで、お姫様は一体、どこの国のお姫様なんです?」
「精霊どもが調べた」
姫は異世界からやって来た、というのが精霊たちの調査は判明したそうである。
「異世界ですか! その異世界には、途轍もないパワーを持つ悪魔とか、凶暴なモンスターとかいませんかね?」
「知らんわい! だいたいな、異世界の悪魔とかモンスターの話を聞いたところで、何がどうだっちゅうねん!」
「その異世界から味方になりそうな奴らを召喚できないでしょうか? 超絶的な異能力を持つ大悪魔や、巨大怪獣! みたいなモンスターを」
姫は呆れたような声を出した。
「お前、悪魔だろ? 自分の力だけで精霊どもを一掃できないのかよ!」
情けなさそうな声を出して悪魔は頭を掻いた。
「お恥ずかしい限りですけど、できません」
「うんまあ、そりゃもうね、それでいいわ。異世界のことは何も知らん。そもそも行ったこともないんだからな」
「でも、せっかく異世界とつながりがあるんですから、何かあるでしょ」
「ないって」
悪魔に言われても困惑するだけの姫だったが、憎い精霊を叩き潰してやるためならば、何でもやるつもりだ。
「異世界とテレパシーで通信してみるというのは、どうでしょう? お姫様の応援をしてくれる者たちが、反応してくれるのではないでしょうか?」
そんな悪魔からの提案に、姫は乗った。
「それ、やってみっか!」
姫と悪魔は協力して異世界へテレパシーを送った。何の手段もないので、やむを得ず取った処置だったが、これが当たった。
「呼んだか?」
何か来た~! と姫と悪魔は腹の底で声を合わせて驚いた。いつまでも驚いたいられないので、声の主に対して悪魔が質問を浴びせた。
「あの、えっと、どちら様でしょうか?」
「呼んでおいてなあ、どちら様はないだろ」
不平をぶつけた後で、声の主は自らの正体を語った。
「私は異世界の神だ。そして、その姫の父親だ」
「父」
「ああ、そうだ娘よ。大きくなったな」
その言葉を聞き、姫は阿修羅のような表情を見せた。
「お前がワイっちを捨てた父親か! お前のせいで、こっちがどんな苦労をしたと思ってんだ!」
姫の父である異世界の神は、自分が捨てた娘に謝罪した。
「迷惑をかけて済まなかった。だが、お前の母が私を捨てて逃げたので、お前を育てられなかったんだ。それで、お前のいる世界にいる優しい精霊たちの助けを借りようと思ったんだ」
父親の責務を放棄した発言である。無責任にも程があるだろ! と悪魔さえ憤ったが、捨てられた当の本人は、それほどではなかった。
「マジでムカつくけど、精霊どもを叩き潰す手伝いをしてくれるなら許してやる。さあ、手を貸しな!」
「悪いが断る。私は、お前たちの世界の精霊たちと協力関係にあるんだ。この良好な関係を維持したい。それに私は、娘を育ててくれた恩人たちに対し、悪い感情は一切持っていない。復讐心なんて、あるわけがない。自分の娘からの頼みであっても、受け入れられない」
姫の人相が夜叉のそれに変わった。
「異世界の神よ、精霊どもより、まずお前を殺す」
険悪な空気を醸し出す父と娘の間に、悪魔が割って入る。
「ままま、お二人の間に色々おありになったとは思うのですが、ここは仲良くですな、あ、私は悪魔です。精霊どもを退治するお力を是非お借りしたくて、テレパシーを遅らせてもらいました。以後お見知りおきを」
姫は舌打ちをした。異世界の王は悪魔に言った。
「精霊たちをどうにかする手伝いは出来かねる。だが、娘と君を助けるつもりはあるよ。異世界の神として、そして父として」
「うっせーよ」
「お姫様、どうか黙っていて下さいませ」
「娘よ、お前にプレゼントをやろう。探偵稼業に使う七つ道具だ」
「いらねーよ」
「悪魔よ、お前には探偵の助手としての力を授けよう」
「それはどうも。その能力って精霊を倒せますか?」
「無理。それじゃ」
異世界の神で姫の父親はテレパシーを打ち切った。だが、この世界と異世界との縁は切れなかった。このときから、二つの世界の交流が始まったのである。
それと、姫と悪魔の探偵稼業も、これがきっかけとなった。
・異世界の存在が認知され、行き来できるように。そこで選ばれた子供達を、交換留学させることになり?
交換留学で異世界へ行く子供達を選別するにあたって、とある学園の生徒から募集することになった。
そこは神童あるいは選ばれし子どもが集められた学園だった。
そして、そこで事件が起きる。
・学園創設以来の天才が何者かに殺された。容疑者はなんと、学園創設以来の“落ちこぼれ”と呼ばれる少年で――。
依頼人の家を見上げて探偵の姫は言った。
「倅は学園創設以来の“落ちこぼれ”なのに、その両親は普通の金持ちとは桁違いの大金持ちなのねえ。本当に血がつながってんのかしら? どうなってんだか、分かんないわよねえ」
その助手である悪魔は囁いた。
「お姫様、大声は出さないで下さいませ。雇い主に聞かれたくありませんので」
そんな風に探偵助手は言ったが、もう遅かった。
「聞こえました。でも、気にしません。どうぞ、お入り下さい」
“落ちこぼれ”と呼ばれる少年の母親に案内され、二人は屋敷に入った。豪邸の玄関から客間まで距離があった。その間“落ちこぼれ”の母は息子が殺害したとされる被害者について語った。
「息子が殺したとされる、学園創設以来の天才ですけど、あの娘を恨んでいる人間は大勢います。容疑者は息子だけじゃありません。他にもいっぱいいるんです。あの娘は、死んで当然の人間だったのです」
魔法学園創設以来の天才美少女は、不定形のスライムの中に閉じ込められ窒息死した状態で発見された。見つかったのは水のないプールの底だった。鍵のかかっていない室内プールであり、誰でも入れる状況だった。そのスライムは学園創設以来の“落ちこぼれ”と呼ばれる少年が魔法の実習で作ったものだった。それが決め手となって彼は逮捕された。その母親は語る。
「スライムを作ったのは、確かに息子かもしれません。ですが、そのスライムを操ったのが息子とは限りません。他の人間が操ったのかもしれないでしょう? それに、不思議なことはまだあります。あの娘……魔法学園創設以来の天才美少女とか言われている小娘が、どうしてスライムに閉じ込められたのです? 素晴らしい魔法の能力を持っているのなら、スライムから脱出すれば良かったんです。それなのに、しなかった。どうしてでしょう?」
姫の探偵は客間のインテリアを見て言った。
「異世界の美術品がいっぱいありますね。どういうつながりが?」
“落ちこぼれ”の母は答えた。
「夫は異世界からの渡航者なのです。その縁で、向こうの芸術品を輸入する仕事をしておりまして、それを飾っております」
異世界からの渡り者には優れた魔法能力を持つ者が少なからずいる。その息子にも、その力が遺伝している……かと思われたが、そうではなかったようだ。しかし、その母は語る。
「いえ、うちの子に魔法の素質がないわけではありません。学園創設以来の“落ちこぼれ”になったのは、わざとなのです」
彼女の息子は元々、魔法学園へ行くつもりはなかった。しかし、両親の希望で入学したのだった。だが、やはり学園生活を続けることに納得できなかったようで、学校を止めようと思っていた。しかし両親は許さない。そこで、わざと試験に落第し、学園側から強制退学を命じられるよう企んでいた、というのである。
「ですから、他の生徒たちのように、魔法学園創設以来の天才に嫉妬し、憎み、排除しようと狙っていたわけではありません。息子には動機がないのです」
容疑者の母から話を聞いた探偵の姫は言った。
「とりあえず、息子さんから事件の話を聞きます」
探偵助手の悪魔は魔法学園へ向かう途中で探偵に尋ねた。
「容疑者の“落ちこぼれ”は警察に収監されているんじゃないのですか?」
「魔法学園は異世界の法律が適応されるの。一種の治外法権ね。それで殺人事件の容疑者である“落ちこぼれ”君は魔法学園に閉じ込められている」
二人を乗せた魔法の馬車は魔法学園に到着した。“落ちこぼれ”の親からの依頼で、彼が容疑者となっている殺人事件の捜査に来たと受付に言うと、学園長が飛んできた。
「警察の方ですか?」
探偵助手が答える。
「私立探偵です。容疑者のご両親からの依頼で参りました」
学園長は慇懃な態度で言った。
「警察の方でないのなら、お引き取り下さい」
私立探偵は言った。
「捜査に協力して下さらないと、異世界との関係が悪くなりますよ」
学園長は唾を飲み込んだ。
「どういう意味です?」
「私の父は異世界の神です」
異世界の神の娘が、この世界で探偵をしているという噂を耳にしていた学園長は、その噂の張本人をまじまじと見つめた。頭に天使の輪でもあるかと思ったが、そうではなかった。普通の人間である。
しかし、普通ではない。そう、普通ではないのだ! となれば、それに従うべきだろう。学園長は二人に尋ねた。
「私に何が出来ますでしょうか?」
探偵は学園長に「容疑者と会わせて下さい」と言った。容疑者の“落ちこぼれ”は高い塔のてっぺんに幽閉されていた。探偵が彼に事情を尋ねる。
「僕と彼女は、あの日、プールの掃除をする当番だった。モップをかける気になれなかったので、実習で作ったスライムでプールの底や床掃除をやらせた。それが終わったんで、寮の自室へ戻った。それ以外のことは知らない」
「あの子を殺した?」
探偵のストレートな質問に“落ちこぼれ”が答える。
「その理由はない」
続けて探偵は尋ねた。
「何か話をした?」
「退学するかもって言ったら、やめないでって言われた。僕を引き止める理由? そんなの分からないよ」
「そうだね、それじゃ、失礼するわ」
探偵と助手は殺害現場の地下屋内プールへ向かった。その水のないプールの底で、大きなスライムの中に包まれて、魔法学園創設以来の天才美少女は死んでいたのである。
助手が探偵に尋ねた。
「この後どうします?」
探偵は助手に命じた。
「死者の魂を呼び出して」
助手の悪魔は探偵の命令に従った。彼が変な呪文を唱えると、白い煙がどこからともなく湧いてきた。その中に、魔法学園創設以来の天才美少女の姿が浮かび上がる。
それを見て探偵は言った。
「天才かもしれないけど美少女ってほどじゃないね」
そう言われた幽霊は言い返した。
「異世界の神の娘って言うから本物の神童なんでしょうけど、見た目は普通以下ね」
言われた探偵はムカついたが死人を相手に揉めるのも何なので黙った。代わりに助手が訊く。
「誰が貴女を殺したんです?」
魔法学園創設以来の天才美少女は言った。
「当ててみなさい、お馬鹿さん」
探偵は言った。
「自殺でしょ。貴女は“落ちこぼれ”君を引き止めたかった。でも、彼は退学する気を変えられなかった。どうすればいいのか? と考えた。学園に閉じ込めてしまえ、それが貴女の結論。で、彼のスライムを悪用した。自分をスライムに閉じ込めさせて、自殺したの」
魔法学園創設以来の天才美少女は尋ねた。
「どうして、あたしがそんなことをするのさ?」
探偵が答える
「好きだったんでしょ、あの“落ちこぼれ”君のことが」
「だからって、自殺はしないでしょ」
「復活できる自信があるからでしょ」
煙の中の娘は復活の呪文を唱えた。すると煙だった魔法学園創設以来の天才は実体化した。
「こんな具合にね、生き返るの」
「そりゃあ良かった。死んでるとぶん殴れないから」
見た目は普通以下と言われたことを根に持っていた探偵は、蘇った魔法学園創設以来の天才を張り飛ばした。
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