第一章 初めての乗馬! その前に……?

2/5
前へ
/124ページ
次へ
 風を切って走る馬は、とても美しい。  それを駆る自分の姿を想像して、頬を緩める。  昴は美しいものが好きだったし、美しい自分も大好きなのだ。  形の良い頭には、サラサラの髪。  白い肌に、整った顔立ち。  すらりとしなやかな、ボディ。  特にお気に入りなのは、目だ。  奥二重のパッチリした瞳を、これ以上ないくらい絶妙の長さの睫毛が飾る。  この目でじっと見つめれば、社交界のどんな人間でも、喜んで彼の言いなりだ。 「でも。この目力が通用しない人間が、いるんだよね……」  そんな独り言を口にしながら、昴は立ち上がると馬場へ近づいていった。  忙しく働く厩務員たちは、自分らと馬たちを眺める視線に、気づいた。 「昴さまが、また来てるぞ」 「どうせ、冷やかしよ。放っておけば?」 「鼻をつまんで、しかめっ面で見てるんだろ?」 「いや、それが……」  昴は、鼻をつまんではいなかった。  馬の臭いに、しかめっ面もしていなかった。  それどころか、笑顔でこんな言葉を掛けたのだ。 「みんな、お仕事お疲れ様。近いうちに、馬に乗せて欲しいな」 「え!?」 「す、昴さま!?」 「ありがとうございます……」  わがまま子息からの、思いがけない励ましだ。  厩務員たちは、驚いていた。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加