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風を切って走る馬は、とても美しい。
それを駆る自分の姿を想像して、頬を緩める。
昴は美しいものが好きだったし、美しい自分も大好きなのだ。
形の良い頭には、サラサラの髪。
白い肌に、整った顔立ち。
すらりとしなやかな、ボディ。
特にお気に入りなのは、目だ。
奥二重のパッチリした瞳を、これ以上ないくらい絶妙の長さの睫毛が飾る。
この目でじっと見つめれば、社交界のどんな人間でも、喜んで彼の言いなりだ。
「でも。この目力が通用しない人間が、いるんだよね……」
そんな独り言を口にしながら、昴は立ち上がると馬場へ近づいていった。
忙しく働く厩務員たちは、自分らと馬たちを眺める視線に、気づいた。
「昴さまが、また来てるぞ」
「どうせ、冷やかしよ。放っておけば?」
「鼻をつまんで、しかめっ面で見てるんだろ?」
「いや、それが……」
昴は、鼻をつまんではいなかった。
馬の臭いに、しかめっ面もしていなかった。
それどころか、笑顔でこんな言葉を掛けたのだ。
「みんな、お仕事お疲れ様。近いうちに、馬に乗せて欲しいな」
「え!?」
「す、昴さま!?」
「ありがとうございます……」
わがまま子息からの、思いがけない励ましだ。
厩務員たちは、驚いていた。
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