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昴は、この藤原邸で最も扱いにくい、わがまま子息だ。
5人兄弟の末息子で、父親から溺愛されて育ったせいもある。
第二性がオメガなので、体があまり丈夫でないことも、拍車をかけた。
とにかく昴の気分を損ねたら、当主である父からの叱責が飛んでくるのだ。
使用人たちは皆、できるだけ昴に関わらないようにした。
下手をすれば、お暇を出されてしまうのだ。
彼の言葉には、はいはいと調子を合わせて、ご機嫌を取っていた。
そんな風なので、昴が我の強い人間に育ってしまうのも、無理はない。
オメガだからと、使用人に舐められないよう、高圧的に接する態度も身についてしまった。
だからこそ、初めて聞く昴の謙虚な言葉に、仰天したのだ。
『みんな、お仕事お疲れ様。近いうちに、馬に乗せて欲しいな』
「どうしたんだろう、昴さま」
「何か、変なものでも食べたんじゃない?」
「昴さま、あんな風に笑えたんだなぁ」
世界の七不思議が8つになった、と囁き合った後は、再び仕事を始めた厩務員たち。
しかし、昴の笑顔は、彼らの胸にしっかりと刻まれた。
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