プロローグ

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プロローグ

 耳元で優しく鳴り響く鈴の音に、藤原 昴(ふじわら すばる)は目覚めた。 「あ、まただ……」  昴が瞼を開くと、音は小さく消えていく。  これも、もう慣れた。 「6回目、だもんね」  周りは窓ひとつ無い、真っ白な部屋。  そして横たわる昴の隣には、淡い水色の法衣をまとった、背の高い男性が立っている。  彼の名は、ロキ。  冥界への水先案内人だ。  ロキの法衣の裾を握り、昴は身を起こそうとした。 「ちょっと! 生地が傷むから、引っ張らないで!」 「ごめん」  口では謝りながらも、昴は裾を頼りに起き上がった。 「引っ張るなと言ってるのに!」 「だから、先に謝ったじゃないか!」  全くこの子は、変わらない。  何度死んでも、変わらない。  この後に望むことも、きっと変わらないのだろう。 「昴くん。またここへ、戻ってきちゃったんだね」 「ロキ。僕をもう一度、タイムリープさせてくれる?」 「やっぱり。そう来ると思った」  ロキは法衣の裾を整えながら、昴に最後の警告を出した。 「覚えてる? ヒトは7回までしか、死に戻りができない。そして……」 「それまでに願いをかなえなければ、永遠に地をうごめく虫へ転生し続ける、だよね?」 「解ってるんじゃないか」  ロキは腰をかがめて、小柄で華奢な少年と目線を合わせた。 「悪いことは言わないから。普通に輪廻転生して、新たな世界へと旅立ちなさい」 「嫌だ!」  昴は、愛らしい顔を歪めて、きっぱりと言った。
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