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「ママ、はやくはやく!」 ひかりが、手まねきをする。 「おくれちゃうよー!」 あかりが、玄関のドアを開けて押さえてくれている。 「待って…いま靴履くとこだから」 私は赤いハイヒールを履くのを諦めて、いつものスニーカーに足を通した。 うー……しばらくぶりで足がキツキツ…。 むくんでるにちがいない。 ハイヒールは向こうで履くため、シューズケースに入れて一緒に持っていくことにした。 「りっくん、これからおそとに行くからね」 隣にちょこんと座る理仁(りひと)を、抱き上げる。 そして、双子が使っていたピンクの耳付きの帽子を急いで被せる。 ……フフ。女の子みたい。 お姉ちゃんたちのおさがりでごめん。 今のうちは許してね。 理仁本人はわからないまま、私の腕のなかでニコニコ笑っている。 笑った目が優しげで、リュウタくんに似ているな、と感じる。 男の子も、とてもかわいい。 マンションの駐車場では、リュウタくんが車にベビーシートを設置して待ってくれていた。 ネクタイをしめて、スーツを着ている姿は、本当に素敵で。 どんな俳優さんにも負けないくらいキマっている。 (カッコいい…) 秘書時代を思い出して、胸がきゅうん…と、ときめく。 「暢子?」 「……ううん、なんでもない」 あなたに惚れ直してたところよ、なんて子どものいる前では…言えない。 あとで言うことにしよう。 リュウタくんは微笑んだあと、私の耳元で 「暢子、その服いいね」とつぶやいた。 双子の幼稚園入学用に買った、ちょっと値のはるツーピース。 「え?」 「暢子には白がよく似合うよ」 ふ、不意打ち。 先を越された。 ほんのり顔が赤くなる。 「「なにやってんのー?」」 車の中にいる双子たちが、イラついた声を出す。 「ごめんごめん」 リュウタくんと慌てて車へ走っていく。 10月生まれの男の子、理仁はもうすぐ1歳半。 双子たちは6歳、今年の春には小学生になる。 その記念に家族写真を撮ろうと、予約していた写真館に向かった。
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