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「…あんた、いつもその眼えするよなア」
「…?」
気付いたらズイ、と長い胴体が一瞬にして目の前に近づき、至近距離に。
────…瞬間、
「きゃあ!!」やら、
「イヤァーーーっ!!!」やら。
耳の外から、甲高い嬌声がドッと沸き上がり女性たちの放つ奇声が、散り散りになってゆく。
わたしも思わず驚いて、半身がそり返りそうになるのを
何とか、
かんとか体幹で押し留めるに収まったものの。
しかし当の彼に、さらに顔を、前触れもなく距離感ゼロに近しく
フラ〜っと覗きこまれては、
周囲に弁解の余地なく、それ相応の関係性ではないのか、と。
疑られるのもまた・・・・・、
難儀な話だわ。
通りすがるハズの通行人が、周囲が、(主に女性だけれども)通りすがりになってくれない事がこのほど甚だ、煩わしい。
────側から見れば、
キスでもしていそうに見えてしまうのだろうか。
馬鹿げている。
なんて、陳腐な妄想だわ。
嗚呼でも────…、たしかに。
顔の造りだけはどこまでも、一級品。
男性らしくありながら陶器のように滑らかな肌と、非の打ち所がない、
____否、強いて挙げるならば
その無干渉に生えた顎髭ぐらいだろうか。
そして、半分ウルフカットの小洒落たヘアスタイルに長身とくれば、
一度は声をかけてみたい、と思うのが世の女心というものなのだろう。
そんな事を、無粋にも見詰め上げた男を凝視して、黙考していれば____、
「クソつまんねえ顔」
「…」
「あ、マズった。くそ詰まんねえー目ん玉?」
「…」
・・・・・どうやら、その口達者も欠点な模様です。
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