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第一・・・・・、
「あの…わたしに、かまっていたら魚なんて売り切れるんじゃないですか」
「んん〜?魚あ?…え、ナンのハナシ?」
「この間、「わたしのせいでお魚を捕まえ損ねた」って仰ってましたよね?」
ピタ、と立ち止まり、
後ろを振り向いて男を(少々、不躾ではあるが)指差しながら
自分より高身長の彼を見上げ、「最近のスーパーは品物が売り切れることは先ず、無いですから」と付け足すと、
用足しを差し向けるように、
せっせと促した。
しかし、どうやら妙な事に男は今一、納得のいかない表情でわたしを
見下げ、
「…オレ、そンなこと言ったっけ?」なんてとぼけた反応を返してくる始末である。
いまだに、自身の顎髭を撫でまわし
ウゥ〜ん…。と首を捻りながら立ち往生すること数秒。
さすがに人目も気になってくるところで、
先ほどから彼のことを一瞥しては二度見まで行った通りすがりの女性たちが、
忽ち頬を染め、
いよいよ声をかけようかかけまいか、の自問自答を繰り出している(であろう)様子を尻目に、
「…あの、止まらなくていいので。普通に歩いてくださ」
「あアっ、おもいだした」
────とりあえず、この雑踏のなかで
立ち止まられては通行人も迷惑極まりないので声をかけたわたしの
小声のその忠告に、被さるようにして
合点がいったらしい返答を乗せた彼は「ちがう違う〜」と陽気な素振りで
手の平をひらひら、と煽ぐと、
「あの「お魚ちゃん」は食材のお魚じゃありませんヨオ?奥さん」
「じゃ何の「お魚ちゃん」ですか」
「今夜のお相手にキマってンでショ」
「今夜のお相手?」
「同衾」
「どっ、」
「簡潔に言うと、セック」
「……帰ります」
「ちょちょちょちょ」
・・・・・前言撤回。
彼はただの変態でした。
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