1.“相川くん”との遭遇

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1.“相川くん”との遭遇

 今日は私の通っている高校の文化祭当日。しかしながら私はひとり黙々とキャンパスに向かって絵を描いていた。  サボっているわけではない。私は仕事を終えたから自由時間なのだ。  文化祭といえど、私のいる美術準備室は静かで快適だ。そのはずが、なんだか廊下が騒がしい。複数の女子の黄色い声とバタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。  なんでしょう。まあ、私には関係ないけれど。 「あーもう、マジでだるいって!」  関係ないと無視を決め込んだその時。バン、と大きな音がして準備室の扉が開いた。そして男の人がなだれ込むように部屋に入ってきた。 「……は?」  部屋に入ってきた若い男は私服を着ていて明らかに生徒ではなかった。大学生くらいに見える。  そんなことより、は?と言いたいのはこちらの方ですが。勝手に入ってきて誰ですか、この人は。  現れたのはいわゆる美形の男の人。落ち着いた茶髪、綺麗な肌に目鼻立ちのはっきりした整った顔。そして妙に惹かれるような目が特徴的な人。  おっと、初対面の人をジロジロ見るなんて失礼極まりない。ところで私服だから卒業生でしょうか。確かにこんな容姿端麗な人が現れたら、人だかりができそうですね。 「……あ、ごめん。人がいると思わなくて」 「どうぞお構いなく」 「いや、お構いなくと言われても」  声をかけたら速攻でツッコミを入れられた。心の声全部ダダ漏れで面白い人。今まで周りにいなかったタイプで新鮮。 「じゃあお言葉に甘えてしばらく隠れさせてもらおっかな。女子に追われて困ってたんだよね」  出ていく気配のないその人は、部屋を一通り見渡して私に近づいてきた。
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