1. 記 憶

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 遅いな……。  この会場に、まだ来ていない職員がいる。  モヤモヤした気持ちを抱えて部屋の外へ行こうとしたら、畳の上の座布団が滑った。辛うじて片手をついて体制を整え、音を立てて廊下へ出る。 「どこ行くんだ?」  トイレから帰ってきたのは、同僚で親友の臼居(うすい)臼居だった。 「ちょっと外、電話してくる」 「何だよ、お前の好きな巨乳のお姉さん呼んだから、早く帰って来いよ」  体をくねらせて女性の真似をする臼居も、大概酔っぱらっているようだ。  おっぱいの大きい女は嫌いじゃないけど、いまは範疇の外だ。  店のサンダルに足を突っ込み、暖簾を跳ね上げて外に出ると駐車場に出た。電話をかけるか、もう少し待つか。 「ちっ!」  タバコを吸おうとして禁煙していることを思い出し、つい舌打ちをした。  イラつきを収めようとしゃがみ込み、もう一度画面を見た。  ここをを抜け出して職場に戻るか? まて、俺飲んじゃっただろ。  どうしたものかと立ち上がると、突然後ろから尻を蹴られた。 「って! 誰だよ」  蹴られた勢いでつんのめり、急いで履いた店のサンダルが片方脱げた。睨むように振り向くと、そこには二人の青年が立っていた。 「ののちゃん、黄昏てどうした」  聞いてきたのは部署の先輩の緒田(おだ)緒田。蹴ったのは、咥えタバコでズボンのポケットに手を入れて座木(ざき)安芸文(あきふみ)だった。  ちなみに“ののちゃん”とは、篠乃目をもじった緒田だけの呼び方である。 「いや、黄昏っていうか緒田さん達が遅いから、料理無くなっちゃうよーって電話しようと思って」  夏海も含めた都市建設部の職員は、店が用意した送迎バスで店に来たが、急ぎの仕事が入った緒田達は終わり次第合流ということになり、席はずっと空いたままだった。 「県に出す書類やってたんだよ。もう、腹減って死ぬ」  二人が店の玄関に向かうと、夏海もスマートフォンをポケットに入れて後に続いた。 「電話してたのか?」  安芸文が、玄関前にある灰皿でタバコを消しながら聞いた。 「いや、……もう大丈夫です」  やんわり笑顔で言うと、安芸文はふぅん、と視線を外した。
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