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遅いな……。
この会場に、まだ来ていない職員がいる。
モヤモヤした気持ちを抱えて部屋の外へ行こうとしたら、畳の上の座布団が滑った。辛うじて片手をついて体制を整え、音を立てて廊下へ出る。
「どこ行くんだ?」
トイレから帰ってきたのは、同僚で親友の臼居臼居だった。
「ちょっと外、電話してくる」
「何だよ、お前の好きな巨乳のお姉さん呼んだから、早く帰って来いよ」
体をくねらせて女性の真似をする臼居も、大概酔っぱらっているようだ。
おっぱいの大きい女は嫌いじゃないけど、いまは範疇の外だ。
店のサンダルに足を突っ込み、暖簾を跳ね上げて外に出ると駐車場に出た。電話をかけるか、もう少し待つか。
「ちっ!」
タバコを吸おうとして禁煙していることを思い出し、つい舌打ちをした。
イラつきを収めようとしゃがみ込み、もう一度画面を見た。
ここをを抜け出して職場に戻るか? まて、俺飲んじゃっただろ。
どうしたものかと立ち上がると、突然後ろから尻を蹴られた。
「って! 誰だよ」
蹴られた勢いでつんのめり、急いで履いた店のサンダルが片方脱げた。睨むように振り向くと、そこには二人の青年が立っていた。
「ののちゃん、黄昏てどうした」
聞いてきたのは部署の先輩の緒田緒田。蹴ったのは、咥えタバコでズボンのポケットに手を入れて座木安芸文だった。
ちなみに“ののちゃん”とは、篠乃目をもじった緒田だけの呼び方である。
「いや、黄昏っていうか緒田さん達が遅いから、料理無くなっちゃうよーって電話しようと思って」
夏海も含めた都市建設部の職員は、店が用意した送迎バスで店に来たが、急ぎの仕事が入った緒田達は終わり次第合流ということになり、席はずっと空いたままだった。
「県に出す書類やってたんだよ。もう、腹減って死ぬ」
二人が店の玄関に向かうと、夏海もスマートフォンをポケットに入れて後に続いた。
「電話してたのか?」
安芸文が、玄関前にある灰皿でタバコを消しながら聞いた。
「いや、……もう大丈夫です」
やんわり笑顔で言うと、安芸文はふぅん、と視線を外した。
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