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2. 感
「ふあぁぁぁ……ねむぅぃ、やっべぇ、仕事になるかな」
酒に弱い方ではないけれど、寝不足なのか欠伸が次々と出てくる。
今朝は気が付いたらベッドの上で、Tシャツとパンツ姿のせいで寒くて目が覚めた。
眠気覚ましに熱めのシャワーを浴びながら、どうやって帰ったのかを考えたけれど、やっぱり覚えていなかった。
ただ、夢の中で人肌に触れた感触が、いやに生々しかったことは覚えている。
「自分の妄想力が怖い」
淡々と支度をして、職場に向かった。
駐車場の定位置に車を止め、同じ職場に向かう人の群れに紛れて歩く。
市役所の中はタバコ厳禁だ。
敷地の端にある、プレハブ小屋を改造した喫煙所では、自動販売機と仲良く立ちながら一服をする。
夏海が足を向けると、中には同い年の臼居の他に数人いた。
「はようござぃます」
先輩達に軽く会釈をして、臼居には笑って見せた。
「おつ」
「お疲れ。昨日はまた酷かったな」
タバコを咥えてライターで火を点けた臼居が、脇腹を突ついてきた。
「ん? そんなことしてないだろ? つーか、あんまり覚えてないけど」
夏海は酔うと記憶を無くす性質で、友人たちとも、言った言わないのケンカを何回かやったことがある。
先に来ていた先輩達が出ていくと、臼居がニヤッと笑った。
「しょうがないな。ほれ」
胸ポケットからスマートフォンを取り出し、おもむろに動画を見せた。
そこには紛れもない自分がいて、安芸文と緒田の間で畳に突っ伏して喚いている。
「なにこれ、引くわ」
顔からも、血の気が引くのがわかる。
「だろ?」
「やばいやばいやばいやばい。安芸文さんってさ、酔っぱらいに絡まれるのほんとに嫌いなんだよな。俺、歓迎会の時もしつこくして、丸一日口きいてもらえなかったもん」
「ま、春は異動になったばっかだったし、途中から緒田さんが庇ってくれただろ」
「確かに」
頷きながら、タバコを消した臼居とプレハブ小屋を出る。
もうすぐ就業時間だ。
「でも俺たち仕事でよく組んでるし、今はすっかり仲良しだから大丈夫だろ」
「ま、そうだな」
二人はあっけらかんと笑った。
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