2. 感

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 あいさつをして部署に入ると、田回と緒田、そして安芸文の三人が談笑していた。  夏海は横目で見ながら自分の席に鞄を置いて、三人の方へ足を向けた。 「おはよう、ございます」 「……おう」  安芸文の横から三人に声を掛けたが、目を合わせずに挨拶を返してきた。  なんか、いつもと違う。  違和感を覚えながら立っていると、緒田が爽やかに言った。 「ののちゃんおはよう。遅いよ」 「いいから、早くお茶淹れてこい」  田回に促され、はぁーい。と隣の給湯室に駆け込んだが、夏海は、安芸文のよそよそしさに怯えた。  やばい、やっぱ口きいてくれないかも。  心の中で呟くと、隣の資料室の端に申し訳なさそうに置いてあるポットを使って、先にお茶を入れていた新卒ルーキーの江策(えざく)が、にこやかに言った。 「おはようございます、昨日はお疲れさまでした」 「おはよ。みんな意外と元気だな」  言いながらまた欠伸が出てきて、うーんと伸びをする。 「そうですか? さっき栄養ドリンク飲んでる人いましたよ。座木さんは、風邪気味らしいです」 「風邪気味、だから上着しっかり着てたのか」  だが、違和感はそこだった。  普段はどちらかというと暑がりで、上着の袖を捲ることが多い安芸文が、今朝はしっかり袖を伸ばしていたからだ。 「すみません、篠乃目さん。ぼく、総務課に呼ばれてて、これお願いしてもいいですか」 「おう、いいよ」  江策がお盆に乗せたお茶を差し出す。 「ありがとうございます。イチ課長はお休みです」 「了解」 部長以下、三人の上役に朝のお茶を配りながら、あいさつを済ませた。
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