2. 感

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 臼居のいる道路維持課、通称イチ課は、現場が仕事のメイン。  朝から机に残っているのは、休暇を取っている課長以外は、書類を捌いている係長だけだった。  水道課は仕切りの向こうにあって、都市建設部の中でも独立した課だ。  夏海は自分が所属する用地課の席に座って、パソコンの電源を入れた。立ち上がるまでに書類を確認する。 「篠乃目ちゃん、この前の確認終わってる?」  用地課の一係長・根本が、現場に行く準備をしながら言った。 「うっす。あと地図プリントして、登記取ります」 「そっか。俺もう出るけど、夕方には戻るから。それまでにいける?」 「大丈夫だと思います。車空いてるかな」  就業時間中は公用車を使う。  総務部総務課で管理している車には限りがあるから、もしも出払っていたら、別の方法を考えなければいけない。  パソコンの管理画面で総務部にアクセスしようとすると、 「篠乃目、法務局に用事あるの? 安芸文も登記取るから、車借りに行ったぞ」  近くで話が聞こえていたのだろう。田回があっち、と総務課の方を指した。 「マジすか? 予約取れたんだ。じゃあ俺も頼もうかな」  一階ロビーから二階までは吹き抜けの構造になっていて、ちょっと見渡せば、都市建設部から総務部の方が見える。  その先に背中を見つけた夏海は、仕事の話を振れば、昨日やらかした無礼を忘れてくれると踏んで後を追った。 「けど、行くの午後っ…て、おい、話終わってないぞ」 「ののちゃんは落ち着きないな」  管理課の自分の席ではなく、空いている安芸文の隣の席でパソコンを使っていた緒田が目で追いながら笑うと、田回は小さくため息をついて後ろ頭を掻いた。 「ごめんな田回、うちの篠乃目ちゃん足が速いから」  根本の親バカならぬ上司バカ天然発言に、ただ笑う田回だった。
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