仲間に裏切られた魔法使い

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仲間に裏切られた魔法使い

『※※緊急クエスト※※ エルメス区の魔法の源である魔法石が賊に奪われました。 緊急事態のため犯人を捕らえてくれた方には賞金をお渡しします。 犯人の特徴は分かり次第随時発表します』 ―――うわ、ビビった。 ―――こんな早朝から警報・・・? 昨日の深酒がたたり少しばかり頭が重い。 更に無理矢理起こされたということもあり視界が覚束ない。 とはいえ内容の重大さを理解するにはそう時間を必要とはしなかった。 「魔法石が盗まれたってヤバくね・・・!?」 魔法石は地域ごとで管理されている貴重な品物でこれがないと人は魔法を使うことができなくなる。 それは日常生活にまで魔法が根付く人々にとっては大問題だ。 そして魔法を使うことを生業としているエルヴィスにとって死活問題だった。 「わ、マジで使えねぇ・・・」 試しに魔法を出そうとしたが普段通りに発動してくれることはなかった。 魔力を全く感じないということはないが魔法石が盗まれたというのは本当らしい。 集中していると微かな魔法の集まりを感じるが、習熟度が低い人間からしてみれば全く使えないと感じてもおかしくない。 試行錯誤しているとグループから連絡が入った。 “朝6時に集合” 「いつも以上に簡潔だな」 グループリーダーのオスカーからの連絡はいつもはもっと詳細に書かれている。 クエストをこなすとなれば色々と準備が必要で対策も考えなければならない。 これだけ簡潔な内容ならよっぽど急を要する用事なのだろう。 「これってつまり賞金首を取りにいくのか・・・!?」 正直な話、昨日はグループで諍いがありあまり気乗りしなかった。 だからといって我儘を言っている場合ではないことも分かっている。 日付が変われば気持ちも切り替わっていると考え重い腰を上げた。 ―――賞金首を捕まえるとなるとトドメ云々は関係ない。 ―――もしかしたらそういうことも考えてオスカーがミッションを決めてくれたのかもしれない。 そう思うと俄然やる気が満ちる。 「よし、来た来た来たぁぁぁッ!!」 支度をし早速待ち合わせ場所へと向かった。 「あれ、まだ誰もいない・・・?」 約束の6時まであと3分だというのに誰も来ていない。 不思議に思いながらも待っていると突然後頭部を殴られ両脇を捕えられた。 「痛ッ!! 何何々!?」 その衝撃は決して冗談や挨拶で行われるようなものではなく、本気で損傷を与える覚悟を持ったものだった。 頭がボヤける中視線を彷徨わせると左右には大盾のブレントと回復のアーリンがいた。 どうやらどちらも憤慨している様子だ。 「え、何して・・・」 戸惑っていると正面からオスカーが現れた。 「・・・オスカー?」 「殴られる心当たりがあるだろ?」 「心当たり? そんなもの・・・」 「エルヴィスは二時間前何をしていた?」 「え、寝ていたけど・・・」 「嘘をつけ。 エルヴィスが魔法石を盗んだんだろ!!」 「は!?」 「本当に残念だよ。 それなりに鬱憤はあるけど仲間として信頼していたというのに」 「いやッ」 「エルヴィスのせいで魔法がほとんど使えないじゃない!!」 「俺たちグループに迷惑をかけんなよ!!」 腕力はエルヴィスが最も低く女性であるアーリンよりもひ弱だ。 その上筋肉隆々としたブレントとの二人がかりだとどうしようもなかった。 言葉を発そうとしても遮られ話すらさせてもらえない。 抵抗できぬままエルヴィスは連行されそのまま警察へと放り出された。 「おい、何の真似だ?」 オスカーが警察と話している間小声でブレントに尋ねる。 「何の真似だ、じゃなくて事実だろ」 「俺がそんなことするわけ!」 「これが証拠の映像ですか?」 その声に前を見るとオスカーは証拠映像を端末で流し警察に見せていた。 「防犯カメラは侵入されている時間帯だけ記録が消されていたというのにどうして・・・」 「ウチのグループにそういう復元が得意な奴がいるんです」 そう言ってオスカーはブレントを見た。 エルヴィスも映像が気になり一緒に端末を覗き込む。 ―――これ・・・ッ!! 証拠映像では顔は見えないがエルヴィスと全く同じ格好をした人物が建物へ入っていく姿が映し出されていた。 今まさに着ているものと同じでは言い逃れができない。 ただ当然ながらそのような記憶はないし、映像では顔は映っていないのだ。 ―――俺は侵入した憶えは本当にない!! ―――酒に酔ってその勢いで入ったのか!? ―――いや、そんな非常識なことをする必要がないし俺は実際魔法石なんてどこにも持っていないぞ!! そもそも魔法石がなくなって一番困るのはエルヴィスで次点でアーリンといったところ。 腕の拘束は硬く簡単には抜けられそうにない。 ただ先程試した感じでは時間をかければ魔法を何とか使えそうだった。 しかしそうしてしまうと本当の犯罪者になってしまうし何よりそれは仲間へ向けて魔法を発動するということだ。 いくら魔法石がなくて魔法力が十全ではないといっても魔法は魔法。 その殺傷力は折り紙付きで下手したら仲間を殺してしまう可能性もある。 今まで人間へ向けて魔法を使ったことはないが頑強な魔物でさえ倒せる魔法を人が喰らって無事で済むはずがないのだ。 魔法使いはある種危険視されていて王様などの有力者には一切の接近が禁止されている程。 「これは本当に俺じゃないんです!!」 「話は後でな」 エルヴィスの言葉も聞かず警察に引き渡された。 警察に捕まれば過剰な反抗はできない。 警察もエルヴィスが魔法使いであると分かるとエルヴィスへの疑いの目は強くなった。 「・・・エルヴィス、残念だよ」 オスカーは表情を落として呟くと仲間を連れてこの場を離れていった。 「オスカー、待っ・・・」 「おい、さっさと歩け!!」 「わ、分かったから暴力は止めてくれ!! 今は魔法の使えないか弱い存在なんだから」 そう言うと警察は少しだけ頭を捻っていた。 「そこだけが不思議なんだよな。 魔法を使えなくして一体何のメリットがあるのか」 「だから俺じゃないって言ってんだろ!」 「それを調べるためにもとにかく一度牢へ入ってもらうぞ」 背中を蹴られ渋々エルヴィスは牢獄を歩いていく。 薄暗くカビ臭い牢屋は初めてでこの先に絶望を与えるには十分だった。 「ちッ、魔法石がないせいで牢屋の守りが弱いな。 とはいえ武器の類は取り上げたし人間にもその影響があるから問題ないか」 「・・・」 「そもそも魔法が使えない魔法使いなんて豚の餌にもならないくらいだろ。 ハッハッハ」 エルヴィスはそのような言葉を聞きながらもゆっくりと魔法力を溜めていた。 10,20倍の時間をかけても普段の10分の1,20分の1の魔法しか使うことができそうにない。 それでもエルヴィスにとっての唯一の望みだった。 「ここへ入っているんだ! 今後の措置はおって伝える」 両手両足を伸ばせば壁につきそうな程に狭い牢屋へ入れられ人生初の牢獄生活を過ごすことになった。
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