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呆れられても、この時ばかりはそれでも構わないとムギは思えた。
(だってわたしは……あなたの行く末を知っているから……)
握手でもするかのように差し出された前足に、躊躇いがちに触れると、しっかりとした温もりを感じられた。
(あの頃は、それが物語に求められている形だと思っていた。でも、こうして生きているこの子に出会って、あの時の後悔が芽を出しているんだ……)
賢そうだが、無垢な瞳に見つめられ、ムギは胸の奥にちくりと痛みを覚えた。
(マメタは……物語が進むと、妹のわたあめちゃんを守って命を落としてしまうの)
そうなるようストーリーを紡いだのは、他でもない……ムギだ。
(でもそれは、本当に必要だったのかしら……)
この、ムギの知らない少しおかしなエンシェンティアで、同じように物語が進むのかはわからないが、書き手として責任を感じずにはいられなかった。
他人のために力は使わないと決めた。世界を変えるような覚悟も勇気もない。
だがせめて、彼の物語に悔いを残したくないと、ムギは自分のためにマムートと歩く道を選んだ。
一章一話「放っておけない異世界とムギの事情」終
二話「失いたくない温もり」に続く
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