長い乾期

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 雨が降らなくなり、一年が過ぎた。  新聞には『令和の大干ばつ』と書かれ、農作物の値段は高騰(こうとう)。魚の生態系も崩れ外来種だの在来種だのいってられなくなった。とうとう、政府が個人宅の水道使量と時間を制限しはじめた。  今朝のニュースでは、アナウンサーがひび割れた窪地にたって「ご覧ください。なんと川が枯れました!」と、異常事態を叫んでいた。  俺は漫然と(アマゾンで半年雨が降らず川が干上がった)という話をおもいだす。ネクタイを締め、出社の準備をしながら。  そして、何故か人が死ななくなった。  天気がここまで異常になるくらいだから、世の摂理(せつり)もねじ曲がるのだろう。    亡くなった人間は荼毘(だび)にふすこともできず、どうしているのかというと、死ぬ直前の作業を続ける。  例えば花に水をやる際に亡くなったら、空になったじょうろに給水して花に撒く。それを永遠と繰り返す。食事中であればナイフとフォークをずっと空中に動かすだろう。  しばらくすると彼らは〝ニセモノ“という不名誉なニックネームを付けられた。  生きた人間は本物であり、魂のぬけた彼らは偽物というわけである。しかもより距離感が感ぜられるように片仮名表記で〝ニセモノ″だ。黒い害虫をフルネームで呼ばず、イニシャルで表すように。確かにニセモノを〝原因不明の動く死体″とは呼びたくない。  映画に出てくるゾンビのようだという向きもあるが、彼らは生者を噛みちぎるという明確な目的でうごいている。さしたる理由もなく邪魔にうごいている分、こちらの方がたちが悪い。腐った匂いだって鼻を突く……。  本物たちは、畏怖の念はあれど迷惑千万と思っていた。
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