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その後、トイレから戻ってきた、真野。
「ねえ、ちょっと!」
何か言いたげだったけど、すぐその後に、雛乃さんが入って来た。
黙って、席につく真野。
雛乃さんが、話し出す。
「すみません、皆さん。お待たせしました。
この後の予定ですが……
副社長の商談が無事成功し、この後、本店に戻って来られます。
午後もまた別件の商談があり、外出されてしまうのですが、ランチの一時間だけ、時間があるそうです。
本来であれば、この後は自由昼食となっていますが、もし皆さんさえよろしければ、副社長とランチミーティングは、いかがですか?
プリンシパルのランゴリーノのランチを、副社長が今日のお詫びに、ご馳走してくださるそうです」
「きゃーーーー!」が、聞こえない。
絶対ここでそう叫ぶはずの真野が、黙ってじっと雛乃さんを見つめている。
なんだ?
ランゴリーノくらい、俺だって知ってる。
知ってるだけで、行ったことはないが。
真野が、きゃーーーー!と絶対叫ぶ店だということは、わかる。
かわりに、他のやつらが、やったぁ!なんて言ってる。
「皆さん、参加いただけるということでよろしいですか?」
皆、頷く。
よかった、と呟く雛乃さん。
「────雛乃さんは」
いきなり、真野。
「雛乃さんは、行かないんですか?」
「はい、私はこの後カフェのシフトに入るので、行きません。
午後は、自主学習になっていると思います。
レポートをまとめたり、社内を自由に見学いただいて結構です。
ただ、こちらももしよろしければ、食後のコーヒーを飲みに、ハレクラニに来てみませんか?
是非、お待ちしています」
にこっ、と、微笑む。
「そろそろ副社長もプリンシパルに到着すると思います。ホテルの一階、エントランス集合でお願いします。
……今日は、ありがとうございました。
この後の研修も、引き続き頑張ってくださいね」
慌てて俺たちも、ありがとうございました!とお辞儀をして、にこっと笑った彼女は、部屋を出て行った。
•••
プリンシパルに向かいながら、真野が教えてくれた内容に、俺たちはまた驚かされた。
真野がトイレから出て来ると、ちょうど廊下の端で雛乃さんが、副社長らしき人物と電話で話していて。
あの5人はどうか?的なことを聞かれてる、と咄嗟に嗅ぎ取った真野は、身を隠して聞き耳を立てたらしい。
俺の態度のこともチクるんじゃないか?と、少し警戒もしたとか。
だけど雛乃さんは、そんなこと一切話さず。
皆優秀な人材だ、と。
頭が良く、拙い(そんなことは決してないのだが)自分の話を即座に理解してくれた、と。
しかも一人一人を細かく分析していて、それがまた的確だったらしい。
あんた達のことはなんて言ってたか覚えてないけど、と前置きし、
真野は、女性一人選ばれたことだけはある逸材。有能であることは言うまでもないが、相当の努力もして来ている。
今後彼女が希望する部署に、絶対配属してあげて欲しい。
彼女を潰さないでほしい。
あの子は、AOIになくてはならない社員になる、と。
そう、言ってもらえた、と。
真野は、涙ぐんだ。
「ランゴリーノの予約もね、雛乃さんのお陰なの。雛乃さん、得意先の専務さんからランゴリーノのランチチケット、もらっていたんだって。優先的に予約が取れるチケットらしいんだけどね?」
胸が、熱くなる。
「ランチの後。ハレクラニで、食後のコーヒーな。レポートも、そこで皆でまとめるか?」
俺の提案に、全員が賛同した。
◇香山翔吾side fin
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