517人が本棚に入れています
本棚に追加
◇真野葉月side〜
ランゴリーノのランチは、絶品だった。
本部長も、とっても素敵な人だった。
彼女いるんですか?って聞いたら、いないけど、好きな人はいるんだって。
今、その人に猛アタック中らしい。
そんなことまで、気さくに話してくれちゃう本部長。
益々この会社が好きになった。
ランチを終えたところで、本部長が言う。
「この後、ハレクラニに行くんだと思うけど。
先に、俺の部屋に寄ってみて?
今、アプリ開発でアメリカから呼んでる凄腕の
プログラマーがいてさ。
ま、それが本職ではないんだけど…
ちょうど今、面白い作業してるところだから、覗いてって?きっと、勉強になると思うよ」
秘書の由良には伝えてあるから。あ、そこで見た内容はまだ企業秘密だよ?
と悪戯っぽく笑い。
じゃあ俺はここで、と、足早に次の商談先へ向かって行く。
「ふぅん。ま、じゃあ、せっかくだから、見てく?」
皆に聞くと。
あんまり乗り気じゃなさそうで、でも本部長がせっかく言うのだから、と、とりあえず本部長室を目指す。
部屋の前で秘書の由良さんが待ってくれていた。
「皆さん、お疲れ様です。葵から、話は聞いています。今から室内にご案内します。
……その、例のプログラマーですが。
相っ当の、変わり者です。
挨拶は、しなくて結構ですよ?
コミュ障ハンパありませんので。
質問しても、返答はないものと思ってください。
この後15分間は、彼に見学の許可を渋々取ってありますので、その間はご自由に、作業を見ていただいて問題ないです。
興味がなければ、遠慮せずすぐに退室していただいて結構です」
にこっ。
所々、そのプログラマーへの棘を感じるのは、気のせいだろうか。
由良さんに続き、ゾロゾロと室内に入る。
一人の男性が、本部長のデスクで作業をしているのが見えた。
「…っ」
本部長とはまた別の種類の、壮絶イケメン。
ハーフ……クォーターかな?
デスクトップPCを中央に、その横にノートPC、タブレットと、他にも私にはよくわからない電子機器を広げ、カタカタカタカタと、何やら没頭して作業している。
「さ、遠慮しないでどうぞ」
由良さんに促され、彼の周りにわらわらと近寄って行く。
一瞬彼が、うんざりした表情をしたのは気のせいか。
私達に構わず、作業を続けていく久我さん。
(と、言うらしい。由良さんに聞いた)
うわぁ…画面がなんか、難しいプログラムの文字が羅列していて、凄い勢いで流れて行く。
これ、ちゃんと見えてるの?
だとしたら、その動態視力ヤバすぎ。
そっち系オタクの井澤くんが、すげーー、すげーー!と叫んでいる。
私も凄いと思うけど、何がどう凄いのかはわからない。
「このアプリが商業化されたら、まじヤバいって!今開発段階だから、俺、頑張れば、このプロジェクトに携われるようになるかなぁ…っ!」
鼻の穴を広げて、めっちゃ興奮してる。
そんな彼をチラッと見やり、優しく微笑んだ…ように見えたのは気のせいか?
だとしても、思わずドキッとしてしまった。
やはりその後、私達と久我さんが言葉を交わすことはなかった。
勇者の香山が何度も質問してたけど、完っ全スルーされてたし。
あ、「うるさい、黙れ」的な視線は一回送ってたかな?
その後、興奮冷めやらぬ状態の井澤を、どうどう、となだめながら、cafeハレクラニに向かう。
「あ、いた。雛乃さん」
店頭で接客する、雛乃さんの姿を確認する。
カフェの制服に着替えて、とっても可愛らしい。
彼女目当てで来てるだろうなって男性が、ひとり、ふたり…
集客目当てで彼女が配属されているのは、間違いない。
彼女に挨拶し、それぞれ好みのコーヒーを買って、席についた。
しばらく、各々の作業に没頭し、レポートをまとめて行く。
数十分たった頃だろうか。
「おい、あれ」
松本が呟く。
?
顔を上げると、久我さんがこちらにやって来るのが見えた。
「コーヒーでも買いに来たのかね?」
レジに近付いて行く、久我さん。
「コーヒー注文する時くらいは、喋んのかな?」
「いや。メニュー指差して終わりじゃね?」
と、香山。
うん、私も後者だと思う。
全員で、彼の行動を見つめる。
彼の視線の先。
それは────
!!!!!
雛乃さん。
雛乃さんは、まだ彼に気付いていない。
久我さんは彼女を目指し、スタスタと更にレジに近付く。
目が離せない。
え、このあとどうなるの??
彼がレジにちょうど辿り着く頃、雛乃さんも彼に気が付いた。
「みゆ」
!!!!!!!
彼女の名前を愛おしげに呼び、くしゃっと見せたその表情に、5人全員がフリーズした。
◇真野葉月side fin
最初のコメントを投稿しよう!