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食器を片付けたら、カズマくんはやっぱりテキパキと帰る支度をした。
家の断水も、午後には終わっているらしい。頼りない先輩と気さくな後輩の空気感に戻ってしまった。
できれば引き止めたり、また会おうよって言いたいけど、理由が無かった。
昨日初めて会って、今朝押し切られてエッチして、たまたまお互いが好みのタイプだと打ち明けた。でも、付き合おうとかそういうことは、言って来なかったから。
これで終わりなのかな。何となく思った。
モヤモヤしつつ、皆にそうしたのと同じ、玄関まで見送りに行く。
1人になったら、またむなしくなりそうな、ちょっとフラれたような気分になるんだろう。
「片付け、手伝ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね」
「うん、ユイトさんもマジいろいろありがとね」
カズマくんは、まだドアは開けずに立ったまま靴を履いていた。
と思ったら、くるっと向き直ってきた。やっぱり背が高くて、見上げる形になる。
「あのさ、また月曜日、来たい」
カズマくんが言ってくるのが、初めは何のことか分からなかった。
「ナベセンたちの集まりじゃなくて、オレだけ来んの。2人で遊んで、メシ食って、ユイトさんが好きなエロい事もできるよ。よくない?」
“ユイトさんが好きな”はひっかかるけど、ダメなわけがなかった。カズマくんがそうしたいと、ボクが言ってほしかったことを言ってくれたんだと、やっと分かった。
「付き合おうってこと?」
聞き返すと、カズマくんはビックリして奥二重の目を見開いた。
「えっ! いいの? マジで? オレ後輩……ってか、年下だよ?」
「年上が好きなんて、ボク、言ったっけ」
「マミさんが言ってたっしょ。ユイトは年上好きやもんーって。あれ、夢?」
そう言われれば、そんな事もあった気がする。
自分でも忘れていたことを、カズマくんは眠い中でも憶えてくれていたようだ。
「変なノリにならないように、その場にいないタイプ答えるようにしてるんだよ」
それは、ボクがボクなりに見つけた切り抜け方。まさかこんなタイミングで裏目に出てしまうなんて。
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