45人が本棚に入れています
本棚に追加
月曜休みの過ごし方
「片付け手伝えなくてごめんね、ユイトん家だといっつも……」
玄関先に立ったモッチがメガネを上げて、眠そうな目をこすりながら言った。おでこに、「にく」と書かれているのも、もう見慣れてしまった。
「いいのいいの。ボク休みだし」
「カズマのことまで任せて悪ぃな。起きたらブン殴っていいからよ」
ナベちゃんも顔の前で拝むようにしてから、空中でパンチした。申し訳なさそうな態度なのに、暴力的なことを言って笑わせてくる。
「あはは、しないよそんな事。昨日知り合ったばっかなのに」
「すごいよね、あの子。初対面の先輩んちで寝るとかしないよ、フツー」
モッチが部屋の中を覗きながら、小声でナベちゃんに言った。マンションの廊下に出て、靴のつま先をトントンしているナベちゃんは、眉間にシワを寄せる。
「あいつそーゆートコあんの。ガサツなんだよな。体もでけーし、態度もでけーし」
「ナベちゃんに似たんじゃないの? でけー声の先輩に」
ボクはドアを押さえながら、そんな2人のやりとりにフォローを入れる。
「度胸があるって事じゃない。来てくれて嬉しかったよ、ボクは」
「ま、確かにな。だから連れて来たのはマジである。なじむと思って」
「なじんでたよ」
「フツー自分1人だけ後輩って状況だとビビるよね。なじみすぎ」
モッチがそう言うと、ナベちゃんの“でけー”笑い声が廊下に響いた。オール明けだろうと、ナベちゃんはいつでも元気だ。
「じゃ次も呼ぶか。また来月な!」
2人はエレベーターの方に向かって歩き出した。ボクもドアから上半身だけ廊下に出して、手を振って見送る。
「うん。行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
「また明日ー」
ナベちゃんとモッチが前に向き直るのを見て、ドアを閉めた。
あの2人が最後、ではない。
リビングの方を向くと、もう誰も座っていないソファーとベッド、それと床に寝転がっている頭が見える。
クッションを枕代わりにした、真っ赤なハデ髪。背が高くて、肩幅があって、かけてあげたブランケットが小さく見えた。
ひと晩いっしょに飲んだとは言え、まだこの子が自分の家にいるのは見慣れない。
最初のコメントを投稿しよう!