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「……なんで、忘れていたんだろう」
告解が終わって、南の顔を見る。彼女はいたましげに僕とメイを交互に見つめていた。
憎たらしいほど太陽のまぶしい青空。耳をつんざいたトラックのクラクション。道路に倒れて動かない愛衣から広がってゆく血の海。離れた場所に落ちた麦わら帽子。次々やってくるパトカーと救急車のサイレン。負けじと響く蝉の合唱。
なんておこがましい。僕は愛衣を守れなかったことが悲しくて、後悔して、記憶を心の奥底に閉じ込めて、目を逸らしてしまったんだ。
メイは、愛衣だ。十年前のあの日の姿のままで。あの頃の無邪気さのままで。ただただ僕の幸せを願って、ふたたび僕の前に現れた。
愛衣。どこまでも優しい愛衣。本当は君が幸せになっていいんだ。天使のたまごだなんて、神様は愛衣を助けてくれなかったのに、仕事だけは押しつけるのか。
ふつふつ沸き上がる感情を抑えきれなくて、目の奥が熱くなる。すると、僕の肩に手が回される気配がして、メイごと抱きしめられた。
「悠人は悪くないよ。わたしだって、そんなことがあったら耐えられない」
南が潤んだ瞳をこちらに向け、震える声で告げる。
「メイだって、悠人が後ろばかり向いて泣いて暮らすのを望んでいなかい。今だって、わたしたちの幸せを素直に喜んでくれたじゃない」
『ゆうととせりのが幸せでうれしい!』
嫉妬も何も無く、純な心で僕たちの幸せを喜んでくれるメイ。
『ゆうとが幸せなら、わたしも幸せだよ』
自分が不幸から抜け出すのではなく、ほかの誰かの幸運を願っていた、誰よりも優しい愛衣。
「メイ」
火照る小さな身体をぎゅっと抱き込んで、祈るようにささやく。かつて彼女が僕に分けてくれた幸いが、彼女にももたらされるように。
「もう、いいんだよ。僕は君の幸せを祈る。君が幸せなら、僕も幸せだよ」
その途端。
ぱあっと。メイからまばゆいばかりの光が発せられて、部屋中を包んだ。
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