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第2話:首都の夜(5)
「ああっ……お、お許しくださいっ……!」
たったひと嗅ぎで、どんな禁欲的な人間も理性が吹っ飛ぶと言われる西域産の〝催情精油〟。
その原液を胸の谷間に垂らされ、舌で愛撫するように嘗められただけでなく、更に硬くとがらせた舌を隙間――豊満で弾力のある双丘はブラジャーで締めつけられており、そもそも隙間などないのだが、そこに無理やり舌をこじ入れてくるのだからたまらない。
エアリスは、息も絶え絶えに許しを乞うしか術はなかった。
ユージャーは無言だ。エアリスが答えるまでこの拷問は終わらぬぞ、とその沈黙が無情にもエアリスに告げる。
「ナターリヤさまは……公女の身でありながら……過酷な日々を送ってこられた方だと……存じます……でも……」
エアリスは今、身体の芯がジンジンと痛いほど痺れ、腦が沸騰したようになっている。とてもまともな思考ができる状態ではないのだが、それでも必死に〝答え〟を述べる。
「そうした日々の中で、逆に下々の者への細やかな気配りと鋭い観察眼を養ったのではないか……と……」
ユージャーの舌が続きを促すように“谷間”をなぶる。
「ナターリヤさまに……付き従っていた者たちは……ザロフ……の一味に……皆殺しに……されました。しかし……それは誰一人として逃げ出さず……最後まで公女を守ろうとした証……とも言えます。御年僅か十六にして……そこまで人の心を摑むとは……並大抵のことでは……ありませぬ」
エアリスは柳眉に苦悶を刻みながら、震える声で続ける。
「やさしさと強さは……しばしば……相容れぬ……ものです」
この時、ユージャーの舌がぴたりと止まった。溺れかけた者が、不意に水の上に顔を出したように、エアリスは深く息を吸うと、一気に言った。
「しかし、ナターリヤさまの中では、やさしさと強さが表裏一体となっているようにお見受けします。もしかしたら――あの方はやさしさのために、強くなろうと努力してこられたのかもしれません……」
ユージャーが、すっと舌を引き抜いた。
「はっ……はっ……はうっ……」
汗の粒が一面に浮き出た身体をぐったりと横たえたまま、エアリスは荒い息をつく。
「〝やさしさのために、強くなろうとした〟か……。ナターリヤとは、なかなか面白い娘のようだな」
ユージャーはエアリスの両手首を縛めていた縄を解くと、ニヤリと笑った。それは決して単純な感嘆の表情ではなく、どこか皮肉めいた、底知れぬ笑いだった。
ようやく激しい呼吸がおさまったエアリスが、縄の痕のついた手首を撫でさすりながら、そろそろと上体を起こす。
「まだ仕事が残っておりますゆえ、他に御用がなければ、失礼させていただきます」
エアリスはユージャーに背を向けて寝台を下り、床に落ちているメイド服を拾おうと身を屈めた。
床の服の乱れ具合から、先ほどユージャーにどのような脱がされ方をしたのかが覗われる。
その時、寝台に頬杖をついていたユージャーが、スッと立ち上がると、エアリスの手を摑んで、グッと引き寄せた。
「きゃっ」
短い悲鳴を上げたエアリスの身体は、まるでダンスのように半回転し、すっぽりとユージャーのたくましい胸におさまってしまう。
ユージャーがエアリスを後ろから抱きすくめた形になっている。
「ご訊問は、もう終わったはずでは……?」
頬を染めつつ、絶え入りそうな声でエアリスが囁く。
「まだ一つ、聞いていない答えがある」
「そ、そのようなことは……」
「ない、と言うのか」
「は、はい……」
ユージャーは軽くエアリスの耳たぶを噛んだ。
「あっ……」
鋼のような腕に抱きすくめられているエアリスに許されているのは、いやいやをするように弱々しく首を振ることだけだった。
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