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第1話:突然の襲撃(2)
「姫!ご……ご無事か……」
デハルトが大きく跳躍し、ナターリヤの前に飛び出し、自ら盾となったのだ。
地面に刺した剣に両手で握り、かろうじて立っているその身体は、まるで針山のようである。
「ゲホッ……」デハルトの口から鮮血がほとばしる。
「デハルト、もうやめて……もう、わたしを守らないでいいから……!」眼に涙を溢れさせたナターリヤが馬車から飛び降り、デハルトに近寄る。
「来るな!」
再びの厳しい声に、思わず立ち尽くすナターリヤ。
デハルトはよろけながら馬車の前に回ると、馬を車から外し、ナターリヤの前まで引いてくると、いきなりナターリヤを抱き上げた。
「きゃっ」ドレスのスカートが広がり、ナターリヤの口からかわいい悲鳴がもれる。「ちょ、ちょっと、デハルト。何を……」
デハルトは構わず、そのままナターリヤを裸馬の背に乗せた。ドレス姿のナターリヤは馬の背を跨げないため、横座りの形になる。
「姫、しっかりと馬の首にしがみついているのですぞ」
「デハルト、あなたも乗って!」
デハルトはナターリヤの必死の懇願にはやさしい視線を返しただけで答えなかった。
代わりに、やさしく馬の鼻づらを叩いて言った。
「姫を頼んだぞ!」
そして、馬の鼻先を背後の森の方へ向ける。
「この森を抜ければ、ナスタの王城はすぐそこだ。少し痛いだろうが、我慢してくれ」
デハルトは馬を傷つけないように、剣の腹で馬の尻を打った。
驚いた馬がいきなり駆け出す。ナターリヤは悲鳴を上げながらも、懸命に馬の首にしがみついた。
馬は敵の包囲網を破って、そのまま疾駆する。
「ナターリヤ公女が逃げたぞ、あの馬を追え!」
武装の男たちはすぐに態勢を立て直し、ナターリヤの後を追おうとする。
「そうはさせーん!」
剣を両手で握り、血まみれのハリネズミのような姿で、敵の前に立ちふさがるデハルト。
「俺の眼の黒いうちは、姫には指一本触れさせんぞ!」
狂ったように剣を振るうデハルトの気迫に、武装の男たちも思わず後退する。
「くそう……こいつ、バケモノか!」
「囲め!矢を雨のごとく浴びせてやるのだ!」
シュッ、シュッ、シュッ。
続けざまに響く矢の唸り。
(姫……姫ならば必ずお妃に選ばれましょう……あなたさまは、クオニアの聖なる光でございます)
※
この時、不吉な予感に襲われ、ナターリヤは馬の上でハッと身を起こし、後ろを振り返った。美しい金髪が風になびく。
(デハルト……どうか、どうか無事でいて……お願い!)
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