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第3話:妃選び(4)
「なあ、本当にジェジェットだったの?」
「そう見えたんだけど……」
「た、頼りないなあ!」
「ジェジェットの帽子が見えた気がしたのよ」
「こんなに暗いのに、あいつの帽子だってわかるのかよ?」
「わたし、眼には自信があるの」
「それにしたって……おっと」
ハンナがグラッとよろめいた。ナターリヤが慌ててその身体を支える。
「だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ。足のつま先が、石と石の間に挟まっただけさ」
不揃いの石が無造作に並べられた路は、凹凸が激しく、場所によっては石と石の間隔がかなり大きい。
「それにしても」足を引き抜いた拍子に脱げかけた靴のつま先を、石の上にトントンと打ちつけて直しながら、ハンナは見回す。「ここは、どうしてこんなに静かなんだろう?」
「そうね……」ナターリヤも周囲を見回す。
先ほどの路地は、貧しい服装で暗い眼をしていると言っても、行き交う人々がいた。つまり、生活の〝におい〟があった。しかし、今二人がいる路は、そうした〝におい〟が感じられないのだ。
しかも、非常に曲がりくねっていて、自分がどの方角に向かって歩いているのか皆目見当がつかなくなっていた。
「さっきの路に戻ったほうがいいんじゃ……うわっ、なんだ」
言いかけたハンナの口を、ナターリヤがいきなり手で塞いだ。
ジャリ、
ジャリ……
ザッ、
ザザッ……
「聞こえた?」ナターリヤがハンナの耳元で囁く。ハンナは頷いてみせた。
「行ってみましょう。足音を立てないように気をつけて」
ナターリヤは、ようやくハンナの口を覆っていた手を離す。ハンナは、はあっと一つ、大きな息を吐いた。
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