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第3話:妃選び(6)
「ナターリヤ、いったい、何がどうなって……?」
髪と服を風に乱したハンナが、なんとか立ち上がって、ナターリヤに問いかけたが、途中で「あっ」と声を呑んだ。
月光を浴びて立つナターリヤの横顔は、冒しがたい気品と強さを湛えている。
(き、きれいだ……)
ハンナは、自分の頬が熱くなるのを覚えた。
「お前も〝風の使い〟なのか? 何者だ、出てきて顔を見せよ!」
マント姿の影のひとりが、女にしてはひどく低い、地を這うような声で言った。
ナターリヤは黙って、物陰から月の光の射す空地の入り口へと出てゆく。
「お、おいっ……ちょっと待てよ、ナターリヤ。危ないって!」
ハンナが押し殺した声で引き留めようとするが、ナターリヤは躊躇いのない足取りで、影たちの方へと近づいていく。
「も、もうっ、仕方ないな!」ハンナも慌てて、ナターリヤの後を追う。
影の一つが、ナターリヤと対峙するように、数歩前に出た。
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