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第3話:妃選び(7)
「なぜ邪魔をした?」影が言った。
影の背は少し曲がっている。それに加え、やや俯きかげんの顔を頭巾がすっぽりと覆っているので、かなりの距離まで近づいているにもかかわらず、ナターリヤにも相手の顔はよく見えなかった。
しかし、かなり高齢の女性らしいことは確かなようだ。
「わたしの友人を傷つけようとしたからです」ナターリヤは静かに答えた。
「友人?」
影の女は、ジェジェットの方を振り向いた。
「友人……?はて、わたしたちは知り合いだったかな?」
「お、おい、助けてもらっておいて何言ってるんだよ!昨日会ったばかりじゃねえか」
ハンナが、ナターリヤの後ろから、ジェジェットを睨みつける。
帽子が僅かに揺れた。ジェジェットは小首を傾げたらしい。
「いっしょに、パンケーキを作ったでしょう?」ナターリヤが穏やかに言う。
「こいつは作ってないぞ。食べただけだ。しかも、こんなちっちゃな身体で、量は一番多かった」ハンナが憤然とした様子で、訂正する。
「あ」ジェジェットが、ポンと右手の拳を左の掌に打ちつけた。「君たちか」
「君たちかって……。とぼけてたんじゃなくて、ほんとうに忘れてたのかよ……」
ハンナが呆れ返ったと言うように、空を仰いで片手を額に当てる。
「同じ場所で同じ物を食すると、仲間意識が生じる。確かに、この二人はわたしの友人と言っていい」
また帽子が動いた。今度の動き方は、うんうんと頷いているらしい。
「忘れていたくせに、よく言うぜ。それに、どうしていちいち上から目線なんだよ……」ハンナがぶつくさ言いかけた時だった。
「こやつの友人ということは……つまり、お前たちは、私たちの敵ということだな!」
影が、身を震わせた。怒りというよりもっとすさまじい、どす黒い怨みのようなものが溢れ出し、四方に放射されたかのようだった。
空地を領する闇が、一瞬で凝った。
ハンナが思わず「ひっ」と悲鳴を上げる。ナターリヤは、そんなハンナを後ろにかばうようにすると、きっと影に鋭い視線を向けた。
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