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第3話:妃選び(10)
「彼女たちは、〝黒の十字架〟っていう結社なんだ」ジェジェットが言った。
ナターリヤ、ハンナ、ジェジェットの三人は、城へ戻る道を歩いていた。町へ出かけると言った時、エアリスから告げられた門限の6時はとっくに過ぎているが、仕方がなかった。
「〝黒の十字架〟?それじゃあ、やっぱり黒魔術を……?」ハンナが訊ねる。
「彼女たちは元々、薬品を扱うギルドだった。ルトムント王の〝科学革命〟によって魔女が弾圧されるようになっても、彼女たちのギルドはスヤバード王国で目立たぬように活動を続けていた。それが最近、〝密かに黒魔術を行っている結社〟だという密告があり、警察に眼をつけられることになったのだ。だが、本当かどうかはわからない」と、ジェジェットが首を横に振りながら答える。
「いったい、誰がそんな密告を?」
「彼女たちの作る薬を買っていた者たちさ」
「え、そんな……?!」
「そういう者たちでなければ、彼女たちの居場所を知っているはずがない」
「そ、それはそうかもしれないけど、利用するだけ利用しておいて、最後は官憲に売り渡したっていうのか」
「魔女への弾圧は日に日に苛烈になっている。彼女たちの作る薬を買っていることで、自分たちまで巻き添えになるかもしれないと思ったのかもしれない。また、言いたくないことではあるが、密告の報酬はかなりの高額だ」
「ボクは、そういうのが大っ嫌いだ!」ハンナが押し殺した声で叫んだ。固く握った拳がブルブルと震えている。
ジェジェットは感情を抑えているのか、むしろ淡々とした声で続けた。
「密告を受けた王立警察が〝黒の十字架〟のアジトとされる場所に踏み込み、彼女たちを逮捕しようとした。だが、あの老女は風の遣い手だから、烈風を巻き起こして警察を足止めし、ほぼ全員が危うく難を逃れることができたのだ。――ただ一人を除いて」
「それがあの女の子だったってわけか」
「そうだ。あの子は何かの用事でちょうど外出していたらしい。老女たちが逃げたところに、ちょうど帰ってくることになってしまった。あまりにタイミングが悪かったのだ。彼女は捕えられ、王立獄舎に収監された。あそこがどんなところかは、君たちも知っているだろう?」
王立獄舎――スヤバード王国の暗部の象徴と言われるところだ。
「それであの子はあんな拷問を……ひどい、ひどすぎる……!」ハンナが絞り出すような声で言った。
「何を考えている?」不意にジェジェットが、さっきからずっと黙っているナターリヤの方へ視線を向けた。
ナターリヤが立ち止まる。
ジェジェットとハンナも足を止め、ナターリヤを見つめた。
「わたしって」ナターリヤがつぶやくような声で言った。「――魔女なのかしら」
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