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第3話:妃選び(12)
「うわあ、ナターリヤ付きのメイド……エアリスだっけ?おっかないなあ!こってり絞られちゃったな……」ハンナが両手を頭の後ろに組んで、ぶつくさ言いながら歩いている。
門限を破ってしまったナターリヤたち三人に対し、エアリスは丁寧な言葉遣いながら、かなり厳しく〝お説教〟をしたのだった。
「それだけ心配させてしまったのね、悪かったと思うわ」ナターリヤが言った。
三人は自分の部屋に戻るために、城の中の廊下を歩いていた。
「ところで、あのエアリスってメイドさ」ハンナがすばやく辺りを見回し、人影がないことを確認してから言った。「武芸の心得があるぜ。眼の配りの鋭さ、身のこなしの無駄のなさ――あれは、ただのメイドじゃない」
「そうね」ナターリヤが頷くのを見て、ハンナはかえって眼を丸くする。
「ナターリヤも気づいてたのか。じゃあ、ナターリヤも……」
「わたしは国で、少し手ほどきを受けただけ。護衛の一人が教えてくれたの」
――姫、お強くなりたいのでしょう?
(デハルト……)
デハルトの顔と言葉が思い浮かび、ナターリヤは痛みを堪える顔をする。
(そう、わたしは強くならなければならない……!)
改めて心の中で誓うナターリヤ。
(それにしても……)
ハンナの言葉通り、確かにエアリスはただのメイドではない。
(やっぱり、あれは夢ではなかったのではないかしら……)
黒い仮面の男の胸にもたれかかるようにして、馬の背に揺られていたイメージが蘇る。
傍らで、同じく馬に乗っている女性の姿。赤い仮面のために顔はわからないが――
(あの髪――)
細かく編み込まれた美しい黒髪。そこにエアリスの髪が重なり合う……
三人はいつか廊下の角まで来ていた。厨房を挟んで、ジェジェットの部屋と、ナターリヤ及びハンナの部屋は反対側に位置しているのだ。
ジェジェットは廊下の右へ、ナターリヤとハンナは左へと、二手に分かれることになる。
「じゃあ、明日また講堂でな!」ハンナがジェジェットに手を振りかけた時だった。
「少し話しておくべきことがある」ジェジェットが立ち止まり、帽子を傾けてナターリヤを見上げた。
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