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第3話:妃選び(13)
身長で見ると、ジェジェットは幼児にしか見えない。
しかし、ジェジェットは教師が生徒に対するような威厳のある態度であり、一方のナターリヤは少し俯いて、ジェジェットの言葉にじっと耳を澄ましている様子であった。
「ナターリヤ、君には類い稀な力がある。それは君が望むと望まないとにかかわらず、君の中で育っている。ザロフに襲われた時は、まだ無意識のうちに力が発動したわけだが、わたしを助けようとしてくれた時は、君は意識的に力を使った。そうだろう?」
「わたしにも、よくわからないの」ナターリヤが救いを求めるようにジェジェットの眼をひたと見つめながら、言った。「あの時は、あの女が風の力であなたを吹き飛ばす〝絵〟が〝視えた〟の。このままではあなたが大けがをすると思って……でも、距離が遠いから駆けつけるのは間に合わない……そうしたら、またお腹の中に火の塊のようなものが生まれて……」
「君が感じた〝火の塊〟のようなもの――それが力の本質なのだ。君はそれをどうやって操った?」
「うまく表現できないのだけれど……わたしはその塊を両手で持って、あなたとあの女の間の空間に向かって投げたような感じだったの……ちょうど、リンゴか何かを投げるみたいに……」
「リンゴだって?」ハンナが頓狂な声を上げた。「あれはとてもそんな牧歌的なものじゃなかったぜ。ビュンッって耳の傍に唸りが聞こえて、それから、バーンって空気が弾ける音がして、それからグォーッて風の輪が広がって……」ハンナが身振り手振りと擬音で、その時の状況を説明しようとする。
「そうだったの?」かえってナターリヤがきょとんとしている。
「うん。すごかった!ビュンッ、バーン、グォーッだよ」
「君はまだ自分の力をコントロールできていない。だから、それをコントロールできるようにしなければならない。力というのはね、諸刃の剣なんだ」ジェジェットが冷静に言った。
「諸刃の……剣?」ナターリヤが自分の両の掌を見つめる。
「そうだ。コントロールできなければ、力は暴走し、かえって君に害をなすことになる」
「わかったわ。ありがとう、ジェジェット」
「礼を言うのは、わたしの方だ。君は昨晩会ったばかりのわたしを助けようという一心で、力を使ってくれた。ありがとう」
ジェジェットは片手を差し伸ばす。それをナターリヤがしっかり握った。
ただ、図としては姉が小さい妹の手を握ってやったように見えてしまうのは仕方がなかった。
「ただ、力を持っていることは、この城の連中には知られないようにしなければならぬ。わかってるね」
「わかっているわ。気をつける」
「ハンナが見たという人影も気になる。明日の剣技の時間は、あまり目立たないようにすることだね。剣なんて重いものは持ったこともない、箱入り公女を演じればいい」
「そうだ!」ハンナが両手をパチンと打った。あの爺さまの退屈な講義がやっと終わって、明日からは剣技の実践授業なんだろう?あの生意気な貴族の娘たちをどう料理してやろうか。腕が鳴るぜ」
「君もほどほどにしておけ。貴族の娘たちの怨みを買ってもロクなことにはならん」
「あの高慢な鼻を、ちょこっとへし折ってやるだけさ」ハンナは明日の授業の様子を想像でもしているのか、不敵な笑いを口元に浮かべた。
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