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第2話:首都の夜(3)
「はい、何かお申しつけでございますか」
エアリスが振り返る。
「わたしを助けてくださったのは、このお城の兵の方だと言ったわね」
「はい、そう申し上げました」
「その中に、仮面をかぶった方が二人、いらっしゃらなかったかしら?一人は黒の仮面で、もう一人は赤の仮面なの……」
エアリスは、一瞬ナターリヤを見つめた後、微笑む。
「城兵は皆、揃いの冑と鎧を身につけております。そのような者はおらぬと存じますが」
「そう……。では、わたし、きっと夢でも見ていたのね。黒い仮面の男の人の胸に抱かれて馬に乗っていたような気がするの。その傍らには赤い仮面の人がやっぱり馬に乗っていて……赤い仮面の人は女の人みたいだった……」
「大変な目にお遭いになった後でございますから、きっと夢と記憶が混乱しておられるのでしょう」
「夢……そうね、わかったわ。ありがとう」
エアリスは一礼して戸口から出て行きかけた。
「エアリス。その髪、素敵ね」
エアリスがピクッとしてナターリヤを見つめた。ナターリヤは、邪心のない笑顔を浮かべている。
「これですか」エアリスは後ろ髪に手を当てて言った。「最近、ナスタで流行っている髪型なのでございます。メイド風情が流行を追うなど、身のほど知らずでございますね……」
「ううん、とってもお似合いよ!さすがナスタは、スヤバード王国の首都ね。おしゃれで、洗練されているわ。今度編み方を教えていただけるかしら?」
エアリスはにっこりと微笑んで言う。「もちろんでございます」
廊下に出て、ドアを閉めたエアリスは、ホッと溜息をついた。
カートを押して長い廊下を進む。最初の円柱のところまで来た時、
「髪型を変えた方がよさそうだな」
いきなり低い声が響いた。
エアリスはハッとしたように歩を止め、慌てて一礼する。
堂々たる偉丈夫が、腕組みをして円柱に寄りかかっていた。口の端には、ちょっと皮肉な笑みが浮かんでいる。
貴族らしい、いかにも高雅な仕立てのスーツに身を包んでいるが、その下の肉体は武人のように引き締まっているのが、服の上からもうかがわれる。
そんな男らしい体格と好対照なのは、女と見まごうばかり端正に整った、その容貌である。
しかも、軽くウェーブのかかった美しい銀色の髪が、その繊細な顔立ちをより引き立てつつ、肩まで伸びている。
たくましい野性味と、艶やかな色気が、一人の男の中で不思議な調和を保っている。女なら、その魅力に心を動かされずにいるのは、かなりの努力を要するに違いない。
「不覚でございました。気を失っているものとばかり思っておりましたのに……」
男は指でクイッとエアリスの顎を上げさせると、顔を近づけてニヤリと笑う。
「これはお仕置きをしなければならんぞ、エアリス」
「は、はい……わたくしの失策でございます。どうか、ご存分に……」
顔を赤らめつつ、エアリスは絶え入るような声で言った。
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