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「それに、夜伽者は必ずしも不幸な制度ではない。その家族は対価として、税を一生払わなくてよいのだから。自分の娘が夜伽者に選ばれることを望む親だって、世の中少なくないのだぞ。阿村と言ったか。お前は確か医者だったな。お前が働きやすいよう、診療所の設備をととのえてやろう」
桐杏はそこではっとした。自分が犠牲となるだけで、家族を貧しさから救えると。
「そんな条件で、娘を差し出すものですか!」
君火は桐杏をかばうように抱いた。
「待って、お母さん」
桐杏は君火から離れる。
「私、夜伽者になります」
「桐杏! だめよ!」
「夜伽者といっても、衣食住が約束されている。悪い話ではないよ。お父さんが処刑されるより、ずっといい」
「……」
役人は腕組みをしたまま、真顔で桐杏を見ている。桐杏は彼の前に立つ。
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