26人が本棚に入れています
本棚に追加
「みんなにも家族がいるでしょう。ここは私より自分の家族のことを考えた行動を取って」
桐杏がそう説得すると、訓出たち島民は全員はっとし、鎮まる。桐杏を助けたいけれど助けられないという、断腸の思いを感じた。
「女、行くぞ」
別れの挨拶もままならないまま、桐杏は役人たちに舟で連れていかれる。
「待ってくれ。桐杏は島の宝なんだ。私の命を差し出すから、その娘だけは連れて行かないでくれ」
判大狗が後ろからよたよたと追いかけてきた。それまで遠い場所にいたのか、彼は今になってここへ来たようだ。
「老人、うるさいぞ!」
役人はそんな判大狗をムチで叩いた。
「うっ!」
判大狗はその場に倒れる。
「判大狗さん!」
桐杏は叫ぶ。年寄りの体にはどれほど痛かっただろうか、と。その痛みを想像するだけで、桐杏の目からは涙があふれる。自分が夜伽者に選ばれたことより、だれかが自分のために傷つく方が、桐杏には堪えがたかった。
最初のコメントを投稿しよう!